『寒中花の道行きに』



仮に他のものがお前に朽木の利になることを望んだとしても、
何時、私はお前に対して利を求めただろうか。

お前を引き取ったときも、お前が望むとおりに入隊させたときも、お前が手柄を立てたときも、
私はお前に何も望んだ事はない。

そう、望むことは何も無かったのだ。
お前がただ傍に在ってくれるならば、それ以上の何を望むというのだろうか。

もっとも、お前が私の傍にいる、その在り方は多岐に渡るというのに。
何故お前らしい在り方に気づいてやれなかったのだろうか。

お前は温かな部屋で蕾を綻ばせるような花では無かった。
そのようなことは、とうの昔に気づいていただろうに。


・・・失うことを盲目的に恐れていたからか。

愚かなことだ。
失うことを恐れるならば、失わぬように護ればいい。

だが方法を誤り、お前がその色を失い萎びれてしまうのは本末転倒。


お前は朽木という温室の中で人知れず咲かせる、か弱き花では無い。
寧ろお前は、厳しい外気の中であってもひるむことなく、その姿で朽木という名を知らしめるが如き花。

私の傍で、私一人が張り巡らせた囲いの中で包み護られ咲く花ではなく。
私の傍で、私と共に立ち、同じものを背負い、抗い、包み護り合いながら彩りを纏うものだろう。

ならば共に立てばよい。
共に背負い、共に抗い、共に護りながら在ればよい。

寒風吹き晒す中であろうと、埋もれるような雪の中であろうと。
時に穏やかな陽に身を包まれ、時に冷たい雨が身を濡らし。

共に同じ空を見上げ、同じものを見つめ。
寄り添うように、其々が持つ彩りを共に引き立てながら。

そう、我らはそうして歩めばいいのだ。


「兄様、どうされたのですか?庭の葉牡丹の寄せ植えに何か?」
「・・・いや、別段何も。」



・・・葉牡丹如きに己らの道行きを重ね見ていたなど、言えるものか。






なお、葉牡丹の花言葉は「利益」「慈愛」「物事に動じない」「包み込む愛」だそうです。


 

 

 

 

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