『その声色を』

 

 

秋空に開く金色の釣鐘花を揺らす風のような、

またはこの青空の下で高らかに鳴る鐘の音のような、

 

その、心地よい声色を、

 

ずっと聞いていたいから、決して顔をそちらへは向けず。

あの釣鐘花のように、俯いたまま顔を上げもしない。

 

けれど心配は無用なことで。

 

私は泣いている訳では無いし、嫌いになった訳では無い。

怒りに打ち震えている訳でも、悲しみにくれている訳でもない。

 

私は欲しいものを集めているだけ。

 

その快い響きを含んだ、そのじんわりと温もりを感じる、

この鼓膜を優しく震わせ、この胸の内を満たしていくような、

 

その 声 をずっと聞いていたいから、この耳だけをそっと向けるのだ。

 

 

本当はその声を紡ぎ出す顔も見ていたい。

本当はその声に安堵を覚える私の表情を見てほしい。

 

でも顔を向けたら、私だけに向けられているその響きを取りこぼしてしまいそうで。

 

両の耳で聞けば取りこぼしが寧ろ減る、というかもしれないけれど、

両の目で見たものも合わせて受け止めれば良い、というかもしれないけれど、

 

・・・きっと私は、素直に笑って其の顔を見上げることなど出来ないから・・・・

 

 

そして今、横顔だけを見せる私の鼓膜には、

私の求めるものが沢山届いている。

 

私の心を満たしてくれる、そのいとおしい声色が。

 

 

地味に拙宅の2周年記念です。。。

以前、『ほととぎす』を教えていただいたのですが、その時には形に出来ませんでした。

今回は・・・近縁種の『紀伊上臈不如帰』という植物で。

 

    ちなみに花言葉は『あなたの声が聴きたくて』。

 

 

・・・だからルキアはそっと耳だけを向けて、優しく鼓膜を揺らし心を満たしてくれるような

心地よい声を聴いているのですよ。

 

 

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