ガマの穂
『ガマの穂~今も昔も変わらない笑顔が~』
 
 
 
川べりの淀んだ葦の茂る箇所で、懐かしいものを見つけたんだ。
 
「ほらルキア、ガマだぜガマ!!」
「何を見つけたのかと思えば・・・」
「だってガマなんてこの辺じゃ見ねーだろ?そりゃ昔はさ・・・」
「恋次!!お前はまたそうやって私のことをからかうつもりなのか???」
 
ちっ・・・怒って帰りやがった。
ったくよぉ、べつにてめーを怒らせたかったわけじゃねーんだよ。
 
―おいルキア、これ、食えるんだぜ?-
―本当か恋次??・・・確かに見た目は何かおいしそうにも見えるが・・・―
―まあガブっといってみろよ。―

・・・・・
―ぺっ・・・こ、こら恋次!!・・・私をだましたな!!!
 こんなもの食べられるわけ無いではないか!!
 口の中がごわごわして気持ち悪いではないか!!―
 
・・・懐かしい、な・・・
あのあと、ルキアは3日間、口をきいてくれなかったんだ。
でもよ、そんなに怒るほどまずいのか、これ・・・
 
「うわっ・・・・」
 
「・・・恋次、お前は何をしておるのだ。
気になって戻ってみれば・・・全く。」
あきれたように、川の水で口を漱ぐ俺を見下ろしていた。
「だってよ、テメーがあん時怒る位に、がまが不味かったのかと・・・」
「口がワタだらけになってごわごわして大変だったんだぞ。
 私があの時口にしたのは、ああなる直前のものだったからなおさらだ。」
ルキアが指差すほうには、実が熟して解けつつあるがまの穂があった。
布団ができるくらいにふわふわなそれは、確かに不味そうだ。
 
「何でも口にしなければならなかったあの頃と比べて、今は幸せなのだろうか・・・」
「さあな。食うに困らねえという点は、数段マシだろうな。」
「・・・そうだな。」
そんなにしみじみ言うなよ、ルキア・・・妙に不安になるじゃねーか。
・・・おい、ルキア、お前・・・今幸せなのか?
また何か辛い思いとか?・・・いや、今の隊長ならそんなことはねーと思うけどよ。
 
けど・・・俺の疑問や不安は、次の瞬間に崩れ去った。
「今日はうなぎの蒲焼らしい。がまの穂と比べたら似たような色だが数倍美味だな。」
「・・・・・・」 
あの沈黙の3日後、てめーが笑ってくれたとき、どんだけほっとしたか知ってるか?
今の瞬間の俺も、多分同じくらいほっとしただろうな。
・・・またてめーが笑っていられるようになったんだからな。
 
 
 
 
 
  
白状します、がま、むかし食べたことあります。そして自滅しました。
だっておいしそうなんですもの・・・あの形状、きりたんぽみたいというか、
アメリカンドッグみたいというか、なんというか・・・

 

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