「決意の香」
・・・俺はどういうわけか、一番上の子どもとして生まれてきた。
下には二人の妹がいる。
まあ、世間にはそういう兄妹、よくいるだろ?
俺もそんな普通の兄貴、なわけだ。
・・・でもよ、普通って、何だ?
俺が兄貴として振舞うのは、普通のことなのか?
俺はどういうわけか、生まれて数年してから兄になった。
自分が兄になったからには、なるだけの理由があるんだろーよ、
そう思うようになった。
・・・俺が弟ではなくて、兄となった理由。
一番上の兄弟として、生まれてきた理由。
それは、後から生まれてくる弟や妹となってくれる存在を守るため。
それだけの「力」を、きっと俺には与えられているはず、そう考えた。
・・・あの日、雨の中、俺は母親を守れなかった。
真っ白いくちなしの花が咲くような、そんな雨の季節だった。
俺が幼かったから、弱かったから・・・守れなかった。
今でもあの香りが漂うと、俺の中の後悔と決意が頭をもたげるんだ。
・・・もう、後悔はしたくねえんだよ。
あのときから、尚更、残された妹達を守らなければならないと思っていた。
俺はあのときから、そうするだけの力を求めていた。
・・・そして、
俺はあいつと出会った。
力を得た。
仲間と呼べる存在を得た。
だが、許せねえ存在とも出会った。
血がつながっていようといまいと、
口に出しちゃいけねーことがあるんだよ!!
まして、見殺すなんてもってのほかだ!!
迷うくらいなら、分からなくなるくらいなら、自分で纏ったしがらみを自分で切り裂いてみろよ!!
本当に護るべきものくらい、頭が固かろうが分かるだろ!!
・・・惑わす余計なモンがみんな取り払われれば、流れてしまえば、見えてくるもんなんだぜ。
雨上がりの後の空気は、湿っているけれども、
どこか清々しくて、何もかもを洗い流してくれるようだ。
記憶の亀裂に塗り込められた、泥のようなものも・・・白く白く。
あの花の香りも、雨あがりのほうが・・・より甘く爽やかに届いてくるんだよな・・・。
あの花に、悲しい記憶は似合わねぇ。
あの香りに、涙は似合わねぇ。
あいつが、あっちに残りたいと言った。
俺の妹じゃねーけどよ、それでも俺は色々なモンを護れてほっとしたんだ。
俺にも、「護れる力」が本当にあったんだ、そう分かったからな。
・・・そして、固いなりにも本当に護るべきものを理解したようだしな。
あいつの顔が、全てを物語っていた。
(・・・もう二度と、あんな顔をあいつにさせんなよ。テメーも兄貴なんだからよ。)
もう、後悔はしたくねぇ・・・
あのときから、そう思って来た。
あの香りが流れてくるたび、その思いを新たにしていた。
そして、どうせなら、妹達だけでなく、仲間を、多くのものを護れる力が欲しい。
だから俺は走る。
・・・雨が降り止まないのならば、俺が雲を切り裂いてみせる。
そう思えるようにもなったんだ。
でも、それは敢えて口にはださねえつもりだ。
くちなしの実のように、思いはずっと自分の中にとどめておく。
ま、いざとなったら、俺の思いを全てぶちまけて、周囲を変えていってみせる。
・・・俺の色に染めていく、とまではいかねぇけどよ。
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