『刹那の価値を知るもの・・・』
夕べの空の色に染まりながら密やかに開く花びら。
純白の絹糸が徐々にほぐれるよう。
たった一夜の命の舞。
朝(あした)になれば、残るのは変わり果てた麻糸の束。
麻糸の束は、その懐に命を静かに抱きながら、
はらりとほぐれ、朽ち果てるときを待つのみなれど。
珠はやがて丸く実り、朱く染まりゆく。
いつかの夕べの空の記憶を、その身に然と受け継いで。
「あら、からすうり」
「ほんとですね~、ちいさくて可愛いですよね。
小さな夕日を写し取ったみたいですね。」
「そうね。
・・・そういえば勇音、あなたはからすうりの花、見たことはありますか?」
「え・・・そういえば、どんな花が咲くんですか?」
「一晩だけ、白くて美しい花を咲かせるのですよ。
密やかに、けれどもその命を一心に燃やすかのように・・・
煌きながら舞い開くのです。」
「・・・隊長?」
「私達は、旅禍の皆さんのような現世の方々から比べれば、
悠久の時を生きているのかもしれません。
けれども、その悠久の時の中にある一瞬一瞬の命の煌きを知らなければ、
その本当の価値を知らぬも同然かもしれませんね。
私達の単調と思えるような仕事も、命という煌きに直面するからこそ・・・
私達は四番隊の職務も、また命そのものに対しても、
それらの有している価値を誰よりも知っている、そう私は常々思うのです。」
「・・・そうですね・・・」
「私達の仕事は、いずれは完治して・・・
からすうりの花がやがて朽ちて地に還るように、跡形も無く消えてしまうのでしょうけれど、
それでも、結果として結んだ実は、何よりも美しいと思うのです。
その夕日色のきれいな、からすうりの実みたいに。」
夕べの色を写した実も、
いつかは朽ちる定めを抱いて。
けれどもその記憶は受け継がれ、やがて再び舞い開く。
夕べの空の下、命の舞のなんと美しきこと。
からすうりを見て、小さな子が出てくるところを最初は思いついたのですが、
敢えてミスマッチな人を選んでみようかと・・・。
そのうち、からすうりの白い美しい一夜花と、卯ノ花隊長の命を見つめる眼差しが重なったような感じでこうなりました。
他のウリ科の植物と比べて、からすうりの花は異質な感じを受けます。
力強さはないけれど、密やかに、けれども一心に命を燃やす様は美しいな・・・と。
でも、小さい子バージョン、書いて見たいな・・・チャドとシバタあたりとか。
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