『すずしろのはな』
・・・ばあちゃん、俺、行くよ・・・
ばあちゃんは俺のことをずっとみてくれていた。
そして、俺が言い出すのを、待っていてくれたんだ。
俺、ヘタをしたらばあちゃんを大変な目に遭わせる所だったんだよな。
でも、ばあちゃんは何も言わなかった。
どんどんばあちゃんが痩せて、顔色が悪くなっても、何にも・・・。
思い返せば、俺の容姿、性分、ものの言い方、その全てにおいて、
ばあちゃんは何一つ、俺を否定したりはしなかった。
そのままでいい、といってくれるかのようだった。
そのままの俺を、ずっと見ていてくれた。見守っていてくれたんだ。
だからこそ、
何で言ってくれなかったんだろう、そう思ったときもあった。
・・・もしも俺に力のことを言ったら、俺がどうにかなってしまうと思ったのか。
俺が、勘違いするとでも思ったのか。
ばあちゃんまでもが俺のことを嫌いになった、出て行って欲しいと思っている、
・・・なんていう、ありえないこととか。
むしろ、俺が自分を抑えて、俺じゃなくなるとか、
ばあちゃんのために出て行く、とか、そんなことを・・・。
ばあちゃん、
・・・俺は、俺のために行く、そう決めた。
きっと、「そういう意思」を固めて俺が旅立つのを、待っていてくれていたんだよな。
俺が旅立つあの日、家の傍で咲いていた白い花。
・・・すずしろの花だった。
まあ、簡単に言えば大根の花だ。
そこらにしまってあったこぼれダネでも落ちて、芽でも出したんだろうな。
それまで気付かなかったんだけどさ、大根って、
こんなに素朴だけど、きれいな花を咲かせるんだな・・・。
ばあちゃん、俺、頑張ってくるよ。
大輪の派手な、錦のような花を咲かせられるかどうかは分からないけどよ、
じっとしっかり根を張って、力をつけて、
そこに咲くすずしろの花のように、
・・・きっと必ず、ささやかでも、俺らしい花を咲かせて見せるからさ。
だから、これから先も・・・俺のこと、見ていてくれよな。
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