篝火花

『篝火の花になって』

 


あなたのあの小さな手を離してから、どれくらい経つのでしょうか。

私は、あなたに再び、会えるのでしょうか・・・

いえ、私が諦めては、いけませんね。
自分が生きるために捨てた妹である、あなた・・・
けれど、忘れることなど出来なかった、あなた・・・
いつかきっと会える、いえ、是が非でも探し出すと心に決めた、あなた・・・

いつしかあなたは、私の生きる拠り所になっていました。


私の歩む道を照らす、二つの篝火・・・
一つは白くてきらきらと輝くような、強くて暖かな光。
もう一つは、たとえ遠くかすかでも、そこにあると分かるだけで胸が熱くなるような光。

そう、あなたも、私を此処まで生きながらえさせてくれた、命を照らす光。


あなたは、どんな姿になっているのでしょうか。
愛らしい娘の姿になっているのでしょうか。
それとも強さを秘めた、凛とした姿でしょうか・・・。

どんな姿であろうとも、私にはきっとあなたがいとおしく映るでしょう。
せめてこの命が尽きる前に、この目にあなたの姿を見たい。
この心に、記憶に、魂に、焼き付けておきたい・・・。


あなたは、今、何処で、何をしていますか・・・。
おおらかに笑ってくれているでしょうか。
それとも、涙の乾かぬ日々を過ごしているのでしょうか。

・・・もしも哀しみの中にいるならば、尚更、
私が、早くあなたの傍に行かなくては。
あなたを探し出して、その涙をこの手で拭いたい。
たとえそれが、砂粒の中から小さな貴石の粒を探し出すようなことだと言われようとも。


あなたを取り巻く世界は、どんな様子でしょうか。
微笑を忘れることのないような、穏やかなものでしょうか?
あの荒涼とした土地のように、厳しく辛いものでしょうか?
または・・・四方が闇に包まれた、足元もおぼつかない世界・・・?

もしも貴方の世界が暗く、一人で歩むには心細いようなものであるならば、
私が貴方の足元を照らす明かりを燈しましょう。
たとえ、私のもたらせる光が、か弱く、高が知れているとしても。

貴方の世界が涙の雨に降られ、常に乾くことがない世界であるならば、
私は大きな葉のように腕を広げ、貴方を雨から護りましょう。
たとえこの身が濡れようとも、たとえ命を削ろうとも。

もしも貴方が飢えに苦しみ、今日を生きるのもやっとであるならば、
私はあなたに、この身を与えたって構わない。
もっともあなたは、愚かな私と違って、人を犠牲にしてまで生きながらえたいとは思わないのかもしれませんが。


私が、あなたを捨てた苦悩を背負って歩いてきたときに
白い光のような篝火を燈してくださった方と出会えたように、

あなたが暗く、辛い日々を歩いているのならば、
今度は私が、あなたの道を照らす篝火になりましょう。
せめて、少しでも明るい道へ、あなたを・・・導けるように。

私は、あなたを、照らしてあげたい。
・・・あなたがその内なる光で、周囲を照らせる程に輝けるまで。
たとえこの身に残された力を使い果たし、
最期の灯が尽きるのを早めるとしても。

それでも、構わない・・・

ただ、私は・・・


・・・あなたを、護りたい・・・。

 

 

 

 

『篝火花』・・・シクラメンの和名です。赤のシクラメンから、緋色の篝火を妹に掲げて照らしたいと願う緋真さんを想像。
赤いシクラメンの花言葉自体は、嫉妬やら何やら・・・なかなかどろどろしたものがあったりするのですが、それは今回無視をして。

「この身を与えたって・・・」のあたりは、昔、食糧難のときに実際に原産地では毒を抜いて球根を食用にしていたところから。

けれど、本当にそれを書いてしまってはかなりグロテスクになるので、そこは「構わない」と、気持ちだけにしておきました。
 

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