『その背に得た翼で・・・』
あれは、
遠い昔のこと・・・
あの街で、私は只願っていた。
この過酷な暮らしから、何とかして逃れたい・・・と。
肩を寄せ合って生きてきた友らはいなくなり、寂しさとやるせなさだけが残った。
けれども、生きたかった・・・生きていたかった。
だから、
死神になることを望んだ。
それが、この暮らしから逃れ、生き延びる道だと思ったから。
しかし、
己の力で死神になろうと誓い合った友を置いて、
私は足を踏み入れたことのない世界に来た。
様々な影響力があった、とは思う。
それでも、悩んだ末に結局は自分で選んで・・・養子になった。
そこに、
私は居場所を見出せなかった。
いや、居場所はあったのだろうけれど、
私が自分の内にどうにか平穏を感じられたのは、鳥篭のようにごく僅かで狭い、
自分を自分で有らしめることがやっと出来る程度の領域の中だけ。
・・・もっとも、足を踏み入れて、身を置いたこの世界自体が鳥篭のようなものだから、
自由なんて最初から無いと思っていた。
それでも、
死神には、なれた。それが条件だったから。
自分が生き延びるために・・・友の分も生きるために選んだ道。
けれど、私が望んだ道は、こうだったのであろうか?
胸を張って「私は死神だ」と言えるようなシロモノではない。
何より、胸を張って「生きている」という実感も・・・ない。
いったい、
私は、何を望んでいただろう。
生きることに窮しなくは、なった・・・。
死神にも、なった・・・。
けれど、心は、遠い遠い空の向こうを・・・ただ只管に。
そう、
私は・・・自由になりたかったのだ。
鳥があの大空を悠々と羽ばたくように。
・・・けれど、
そのような思いを抱くこと自体、おこがましいのかも知れない。
なぜなら、私は・・・
私に平穏を与えてくれた大事な人をこの手に掛けた。
私に居場所を与えてくれた隊の皆を傷つけた。
私を助けようとしてくれた仲間らを傷つけた。
私の幸せを願ってくれた友の手を振りほどいた。
だから、
・・・私が自由を望むことなど、許されないと思っていた。
ましてや、この生を長らえたいと思う事は、尚更・・・浅ましい、と。
いっそ、
・・・この身も、この魂も・・・消えてしまえば、自由になれるのだとさえ思っていた。
結局は、私はありとあらゆるものから逃げていたのだ。
やはり、生きている資格はない・・・自分をあざ笑うことしかできなくなっていた。
なのに、
何故・・・?
私は、生きていてはいけない・・・はずなのに。
やっと自由になれると思っていたのに。
遠く遠くはるか向こうから、そんな私を救おうと乗り込んできた仲間が。
かつて共に死神になろう、生き抜こうと誓い合った友が。
陽だまりのような居場所を与えてくれた、隊の皆が。
そして、私を見捨てたはずの「鳥篭」の持ち主が。
・・・声も姿も知らずとも、心の奥底に刻まれ、私を慈しんだ『思い』が。
・・・私は、生きている。
そして、
私の目に張り付くように見えていたはずの鳥篭の篭目は、
何時しか見えなくなっていた。
その代わりに、
私に生きる気概を与えてくれた、相変わらずの友らが見える。
陽だまりのように、再び私を迎えてくれた隊が見える。
不器用なりにも、守り、時に矢面に立つ覚悟を持つ背中も見える。
その灯が燃え尽きるまで私を照らそうとした緋の光のような思いも・・・今なら。
そう、
・・・私と世界を遮るものは、無かった。
いや、もともと、私と世界を遮る篭目も、無かったのかもしれない。
私が抱え込んだ苦しみから逃れるために、己の内に作り出していた幻のようなもので。
もともと無かったのに、自分を苛む「苦しみ」を、
取り巻く外側のもののせいにしたかっただけかもしれない。
たったの、
それだけにも関わらず・・・今までと何も変わらないのに、
私は、心が軽やかで・・・そう、『自由』になれた気がした。
遠くを見つめながら渇望していたものは、こんなにも傍にあったのか、と思った。
かつて、
私は・・・背負い続けてきた苦しみから逃げ出したくて、必死だった。
必死で必死で、倒れてしまいそうにもなったけれど、踏みとどまろうと耐えていた。
けれど、今、「背負い過ぎだ」と諌め、共に背負ってくれようとする仲間がいる。
其の分、私には・・・少しだけ、ささやかでも喜びを抱く余裕が出来たかもしれない。
そうか、
背負いきれぬほどの哀しみや苦しみ、怒りを一人抱えてうつむき駆け抜けるよりも、
ほんの僅かであっても喜びや楽しみ、希望を抱いて顔を上げて歩むほうが、
・・・人は、より強く在れるのだろう。
・・・自由で居られるのだろう。
仮に再び体は囚われの身になったとしても、心だけは、自由に。
もっとも、二度と囚われの身になるつもりもないけれども。
だから、
ささやかな喜びでもいい、僅かな希望でもいい、
それを胸に抱いて・・・
どこまでも、歩いていこう。
どこまでも、飛んでいこう。
目の前に広がるのは、遮るもののない開けた世界。
一度飛び出せば、其の身を守ることができるのも、自分のみ。
それもまた自由の側面であり、代償。
けれど、私は、たとえこの身が一人であろうとも、
心は、決して、「ひとり」ではないから・・・
・・・さあ、
この背に得た自由という翼で、広い空へ。
伸びやかに、軽やかに、強く強く、その翼をはためかせて。
・・・妹さんの御誕生日に書いたかきものです。
その前にスーザン・ボイルさんの「Wings To Fly」を聴いていて、コレを元に書いたら清々しいかな、と思ったので。
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