『十薬の教え』
儂はその姿ゆえに長年疎まれ続けてきた。
そして、それを宿命と言うかどうかはともかく、受け入れながら生きてきた。
人目を避けてさえいれば良かったのだ。
しかし、儂は死神を目指した。
密やかに生きるだけでは何も変わらぬ、そう考えてのことであった。
もっとも、わが友がきっかけであったことも否定は出来まい。
平和を愛し、世界を憎んでいた、我が友・・・
そのような友の世界を変え、そして儂の世界も変えられたならば、と思っていた。
その中で出会ったのが、我が師とも言うべき総隊長であった。
あの方は、儂のこの姿を疎むことも無く、他と同様に接してくださった。
『大切なのは、その心意気じゃ』
儂の外側ではなく、内なるものを見てくださったのだ。
・・・この方のためなら、儂は持っている全てを捧げられる、そう確信した。
少なくとも、儂の世界は変えられる、そう思ったのだ。
ある日、隊舎裏の五郎(儂の飼っている犬)の小屋の傍に
どくだみの花が咲いていることに気付いた。
「・・・どくだみ、か・・・儂と似ておるな。」
その名、その姿、有する独特な匂いから・・・疎まれがちな植物であろうな。
名前からして、何かよからぬ物を内包しているようにも感じられよう。
日陰に咲き、暗色の葉に毒々しい色の茎を有している姿も、輪を掛けてくるようだ。
そしてその身から立ち上る匂い・・・悪臭とまでは言わぬが、薬や毒のようで
必ずしも好かれないものであろう。
・・・昔の、儂のようだ。
だが、どくだみは、
その姿に似合わぬ美しい花を咲かせる。
穢れの無い、誠を秘めたかのような白い花だ。
更には、その姿からは想像も出来ぬような隠れた薬効を秘めているのである。
・・・総隊長殿も、儂にそのような秘めたる力を見出してくださったのだろうか。
いずれにせよ、儂はここにあるのだ。
今己の目に映るものだけに踊らされてはならぬ、物の本質を見失ってはならぬ、
そう儂に教えるかのようにどくだみは咲いておった。
・・・我が友の光を映さぬ目は、真実を見抜いていたというのだろうか。
我が友が憎んだこの世界は、彼に真実を見せていたというのだろうか。
・・・いや、否。
恐らく彼もまた、その心の目に映したたった一つの物を妄信したのかもしれない。
儂は、我が友にも気付いてもらいたいのだ。
絶対に、彼の目を覚まさせて見せる。
我が友の目は見えずとも、心の目が彼にはある。
その心の目に、再び・・・
「このような場所にどくだみなど・・・直ぐ引き抜きます!!」
「良い。このままにしておこう。」
「え、ですが・・・」
「この草は、真実を見抜けと我らを諭しているのだ。」
「・・・そうですか?・・・隊長が宜しいのであれば、そのままにしておきます。」
・・・だが、それさえもおごりかもしれない。
我が友は、儂の予想以上に世界を憎んでいた。
それでも、儂を疎んだ友であろうと、尚も儂は・・・信じていたのかもしれない。
必ず、目を覚ましてくれることを。
真の姿を、その心の目で見つめなおしてくれることを。
・・・たとえ、それが今際の時であったとしてもだ。
昔、星野富弘さんの詩集を読んだときに、この草について綴られたページを見て
衝撃を受けたことがありました。
確かに、その名前と姿からは敬遠されがちですが、一つ一つのつくりを見ていくと、なるほど、可憐とまではいかなくても・・・美しい姿をしているのだな、と。
花は十字架、葉はハート・・・星野さんはクリスチャンだそうなので尚更印象深い植物になったのだろうと思いますが、そういうの関係無しに視点を変えれば、また違った姿を知ることができるのだな、と。
・・・そういうのを全て知ってこそ、「真実」なるものはみえるんでしょうかね・・・。
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