ふきのとう

「恋次、可愛い花が咲いているぞ」
「・・・ふきのとうか。それ、食えるんだぞ?」
「それは本当か??」
 
・・・結局、私はふきのとうを食べるどころか、摘むことさえ無かったのだが。
あの時は自分でもよくわからなかったのだけれど、
それでも、どこか私と「似ている」と思えたから、どうもそういう気にはならなかったことを
覚えている。
 
 
「お、ルキア・・・ふきのとうが咲いてるな。」
「もう、春なのか・・・。」
 
「そういや、オメーは・・・昔、ふきのとうを食わなかったよな。」
「そうだな。」
「ま、確かにアレ、苦くてフキの茎と比べたら、確かにガキが食えるようなモンでもねーけどよ。」
 
 
・・・でも、今なら分かるのだ。
 
「・・・違うよ、恋次。」
「ん?」
「やっと咲いたばかりの小さな花を、簡単に摘む気になどなれなかったのだ。」
「・・・・」
「長く続く、辛い冬を耐えて、やっと・・・この世界で陽の光を見たのだから。」
 
 
・・・そう、耐えて耐えてやっと与えられたささやかな温もりを奪う真似なんて、私には出来なかったのだ。
 
 
孤独だったあの街で私に与えられたかつての仲間のぬくもりも、
一度は解かれてしまった此奴との絆のぬくもりも、
住む世界が違うと分かっていても繋がれた現世の仲間とのぬくもりも、
私に与えらることなどないと思っていた家族のぬくもりも、
 
たとえささやかなものであったとしても、そのいとおしさは変わらない。
 
 
・・・だから、
やっと此の世界の温もりを知ったお前を、摘むことなんてできなかったのだ。
もっともっと、此の世界の暖かな日の光を知って欲しかったから。

 

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