俺は幼い頃から、お前の目を見てきた。
この仕切られ、古めかしい世界で生まれ、負いきれぬものを負い、
それでも大家に産まれた誇りを持って生きてきただろう。
だが、生き生きとした幼少の面影はやがて失せ、
一時は瑠璃のように輝いた双眸も遂には輝きをも失い、
お前の目に宿ったのは漆黒。
正直、見ていられたものじゃなかったな。
そんなお前の傍に、微かに闇を和らげる紫の光が差し込んで来た。
計り知れぬほどに深い漆黒に、その光は萎縮していたけれども、
・・・俺は気付いていた。
闇を和らげる紫の光、それは夜明けを告げる存在そのものだったのだ、と。
何より、それを自ら遮るような真似など、お前には出来やしないことも。
自分の内にある漆黒の時に終わりを告げたいと願っていたのは、夜明けを願っていたのは、
他でもないお前、だったのだから。
紫の光に照らされ、漆黒は色彩を取り戻していく。
生来の藍を経て、お前の瞳に宿ったのは・・・
兄様、と呼ばれてもお前は表情一つ変えないが、
その双眸に宿る輝きは、俺たちを見ているときとは違うな。
紫の柔らかな光を受け、深い藍に光が射し、世界を包むような、澄んだ青になる。
それは海の青よりも鮮やかで、空の青よりも深い。
・・・お前だけが持つ、お前だけの青。
あの光が射すときにだけ見せる、あの光のためだけに帯び、纏い、放つ、青。
他の誰も、その青を引き出せない。
そう、お前を兄と呼ぶ、あの光以外は。
か弱くも強いあの光を失ったら、お前は永久に闇に埋もれていくのだろうか?
いや、かつてのお前とは、もう違うな。
お前は、あの光を苛むものを撥ね退けていくだろう。
・・・それもまた、強さだ。
お前は護るべきものを得て、初めて強くなれる・・・そういう存在だ。
―兄様、お待たせして申し訳ありません。
―構わぬ。
失い続けたお前がやっと得た、お前をお前足らしめる存在。
お前に夜明けを告げ、お前の持つ青を輝かせる存在。
そしてお前の持つ青で、お前が包み込みたいと願った存在。
・・・そんな掛替えのない存在に寄り添う、お前。
その寄り添い合う姿は、まるで青を纏った睦まじい翡翠のよう。
翡翠に比べれば、さえずり交わす言葉こそ少ないけれど、
・・・その言葉の奥には聞こえる、その眼差しの奥には見える。
鴗の青き双眸に宿るのは、限りなく澄んだ夜明けへの想い
・・・これからも、その青を失わずに済むように願わずにはいられない。
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