昔むかし ずぅっとむかし
こどものころの―…いや、物心もつかぬ赤子のときの
記憶の隅に残っている 涙声まじった 旋律
恋次とはじめて喧嘩をしたきっかけはこれであった
「何だよルキア その出鱈目な歌」
私が何気無く口ずさんでいたのを鼻で笑われた
何故か凄く頭にきて、顔面に拳を一撃 その日から三日間は奴と口をきかなかった
あれから ずっと、何とは無しにあの旋律を口にしないようにしていたのだけれど
「―確か、このあたりだと仰っていたような…」
きちんと整頓された棚に手を触れるのは申し訳無い気もするが、頼まれたことだから致し方無い
だが、白哉兄様の本棚をみるのに私の背丈では足りず、踏み台を使いながらであるので、かなり足元が不安定で
「む?これか―う、わ…!」
ようやく探していた数冊の書物と一緒に、其処に置いてあったちいさな木箱が落ちてきた
まずい…!!
反射的に手を伸ばし、受けとめようとして、
踏み台とともに畳には倒れこんだが、胸のなかに木箱があるのを確認して己の運動神経に安堵した
「―ん?」
起き上がろうと体勢を変えると、抱えこんだ胸元からちいさな 硝子のような、鈴のような音が聞こえてきた
「…これ から、きこえているのか?」
いつのまにか蓋が開いてしまっていて、でも幸いか 中には何も入っていない妙な形をした木箱は確かに微かな音を響かせている
それを耳の傍まで持っていき、瞳を 閉じた
金属的な音と、記憶の隅から涙声がまじって―…
―知っている、これは
「ルキア様!どうかなさいましたか!?」
はじまろうとしていた私の回想は、血相を変え襖を開けた清家殿に遮ぎられた
思い出をたどって、ひとつひとつ 音を旋律にしていく
気が付けば、すっかり口についてしまって
ぼんやりしていると、また 口ずさんでいる
「―ルキア」
「あ、は はい!」
縁で夕陽を眺めていたら、白哉兄様に声をかけられるまで気が付かなかった
慌てる私を余所に、兄様も縁に腰を下ろされる
「先程、口ずさんでいた…」
「あ、申し訳ございませぬ―はしたないです よね…」
恥ずかしくなって俯くと、空気が揺れた
「―?」
顔を上げると、驚きまじりの柔らかな眼差し
「ついてこい」
そう言って、突然 立ち上がった兄様に 私は慌てて後に続いた
「―これは」
「自鳴琴というものだ」
つれて来られたのは、白哉兄様の御部屋
手渡されたのは、このあいだのちいさな木箱
「のこっているのだな…」
兄様のおおきな手が、木箱の蓋を開けると 私から離れぬ あの旋律
「あの…兄様、これは…」
「…私が つくらせたものだ―緋真の 子守唄を」
「姉様の…」
記憶に無い緋真姉様
話したことも、会ったこともないけれど
「…とても、ちぐはぐな音のならびですね」
「ああ― …だが、これを聞くとすぐに泣き止んでいたそうだ…」
「…、」
木箱がひとつ ひとつ音を奏でるたびに、あたたかい気持ちと笑みがうまれる
今までずっと、どこかで不安だった緋真姉様と私の 関係
でも、しっかりと確かに ここ にのこっていて
それは、確かに 姉様が私に奏でてくれた旋律で
私は今日も、この旋律を口ずさんでいる
あたたかい気持ちにつつまれながら
我が『かきもの』の師と勝手に仰がせていただいている『胡瓜のつけもの』店主、胡瓜様にとてつもない我侭と難題を吹っかけてしまったにも関わらず、
私のリクエストに快くお応え下さり、素敵な緋ルキ作品を頂いてしまいました。
(画像もレイアウトも、胡瓜様のお許しを頂いて、ここで再現させていただきました!!!)
残念ながら看板を下ろされる、とのこと・・・ですが、胡瓜様の新たな門出を祝しつつ、心からの『ありがとうございました!!!』を申し上げたいと思います。
本当に色々とお世話になりました!!そして有難うございました!!
これからの胡瓜様に幸多からん事を!!!
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