旅立つ、その時に

 

『旅立ちの日に・・・』(麝香連理草

現世への派遣が決まった日のお前の顔を、俺は今でもよく思い出す。

自分の力を認めてもらえたような喜びと、本当に自分でよいのだろうか、という困惑。
・・・そして何より、
分かり合えぬ寂しさを抱いたままで旅立つ、お前自身の心の揺れ。

だがな、それでもいいんだ。

お前の『今まで』が変わるとき、何も喜びだけが存在するわけではないからな。
悲しみも、苦しみも、困惑も・・・かならず付きまとう。
それはどんなに時を経ても、誰にでもあることだ。

・・・いつかそんな日々も笑って話せるようになる、大丈夫だ。

新しい世界へ旅立つお前には、餞にこの花を贈ろう。
 
 

この花に似た軽やかな蝶のように、その羽をはためかせて飛んで行け。
恐れることなく、軽やかに、伸びやかに、春の光を浴びて咲き誇るんだぞ。
 


『絆』(紫羅欄花)

お前と私が出会ってから、幾つもの時を経てきたな。
その間にも様々な事があったが・・・

お前が何も言わずに旅立ったこともあった。
お前が誰かを傷つけたこともあった。
お前が誰かを護るために自ら罪を負ったこともあった。

だが、私は・・・そのようなお前の世界を直視してこなかったのだ。
お前を危険な目に遭わせまいと、穏やかな幸せを与えたいと願いながらも、私は・・・。

そして、

お前と初めて心を通わせたとき。
お前の背中を押したとき。
お前が私の誇りであると心から思ったとき。

お前と向き合うようになってから、私の世界に彩りが以前にも増したような気がする。
嗚呼、此れが絆というものなのかと私はお前と共に在って学んだのだ。


お前には愛でられるために計算ずくで仕立てられた庭の花木のようでもなく、
かといって野を這う雑草のように粗野でもない。
いうなれば・・・春の日の中で風にそよぐ花。
その実、地中の根は深く深く張り、春の激しい気候変化にも耐える強さを備えている。

私の世界に彩りを与えたお前に、絆の言葉を司る、伸びやかに咲くこの花を。
 

これから先も、お前に春の暖かな光が降りそそぐ様に。
これから先も、お前が春の温かな風に心地よく舞えるように。

・・・絡まった思いを解いて再び繋いだそれは、以前よりも解けぬもの。
そして・・・いざとなれば、お前の居場所は此処にある。

故に案ずるな。
お前の願うように咲き誇り、お前の信じる道を進むのだ。
 


『人生において・・・』(桜蘭)



新しい世界に旅立つオメーに、コレをやるよ。
 

ま、何の事はない観葉植物だけどよ。
窓際辺りにでもちょこっと飾れば、それなりに絵になるんじゃねぇの?

慣れねぇ生活で、辛いときもあるだろうし、泣きたいときもあるんだろうな。
けどよ、そういう時はとことん泣いちまえよ。
そうしてまた、顔を上げればいいさ。

・・・そのときに、この鉢植えが目に入ったら、思い出せよな。
オメーには、応援してくれる仲間がいるってことを。
・・・一人じゃない、ってことを。

そうだ、俺の親父の受け売りだけれどもよ、この言葉もやるよ。
人生の門出に立つ、オメーに。

『人生に於いて、主人公たれ』

・・・俺も、頑張るからよ。

 

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