『空を舞う千鳥のような』
・・・何時の頃からだったか。
ワシがワシであるという当たり前のことに疑問を持ったのは。
ワシはあの家に生まれ、あの家をいずれは治め、率いる者として育てられてきた。
しかし・・・すんなりと事が運び、すんなりとワシは当主となった訳ではない。
そう、全てはワシが『女子(おなご)』であったこと。
ワシの父は「天賜兵装を守護する此の家に、か弱き女子の当主など要らぬ」と。
ワシの母は「貴女を男として産んであげることが出来たなら・・・」と。
『ワシは、ワシじゃ・・・女子じゃろうと、何じゃろうと、ワシは・・・』
夜一、という女子とは思えぬ名を背負い、
四楓院、という重い肩書きを背負い、
男も女も関係なく、ワシをワシとして認めてもらえるよう、努力してきたつもりじゃ。
結果として付いてきた、
「四楓院家初の女当主」「隠密機動総司令官」「護廷十三隊二番隊隊長」という肩書き。
「瞬神」という二つ名。
『・・・だが、そんなものが欲しくてワシは・・・。』
それでも、ワシをワシとして、一人の存在として見てくれた友がおった。
幼い頃から共に鍛錬し、学びあい、戦い、そして肩を並べるようになった。
あ奴と共に在るときは、ワシは自分の背負ったものを一瞬でも忘れることができたものだ。
―ちょっとこの辺で休むかのぅ。
―そうだ夜一サン、いい物をあげましょう。
―なんじゃ喜助?
―・・・ハイ、千鳥草です。
―・・・ワシに花じゃと?お主までワシを女子じゃとからかいおって。
―そんなことはありませんよ?綺麗な空色でしょう?
・・・少なくとも色は、赤や桃色と比べたら女性らしくはないと思いますけれど。
何より私は、夜一サンにぴったりだと思ったんですけどネェ。
―どこがじゃ?
―名前と、この花が持っている意味ですよ。
―・・・名前、と、意味じゃと・・・?
―ええ、この花が持っている意味・・・ま、花言葉と言ってしまいましょうか。
『自由』・・・ですよ。
自由に空を舞う千鳥を模した花、中々素敵でしょう?
そして・・・夜一サン、貴方が一番欲しているもの、ですからね・・・。
―強ち、間違いではないのう・・・。
ワシをワシとして認めてもらい、そして其れを得たいが為に、ワシはこうしておるんじゃし。
―私と一緒にいるとき、貴方は何も背負わずにいられてますかネェ・・・?
―まぁのぅ・・・。
そう、自由だったのじゃ。あ奴共におるときは。
・・・そんな友が、仲間を救うために禁じられた術(すべ)を用いた。
分かっておる、
お主が何の理由もなく、浅はかな思慮からそのような術を用いることなどない事位。
長年友をやっているワシをも欺けると思うたか?
ワシ一人がいなくなっても、あの家や隊、隠密の奴ら・・・
そしてあの世界の体制などは変わりなどせぬ。
『・・・要は、ワシの肩書きの代わりなどいくらでもおる。』
じゃがの、ワシの代わりは誰もおらぬし、お主の代わりも誰も出来ぬ。
それに、ちぃとこの堅苦しくて黴が生えたように古臭い世界に・・・飽きたのじゃ。
・・・ワシがどんなに努めても、此の世界では得られなかった、其れ。
これから先も、恐らくは得られぬじゃろう、其れ。
確かに、此の世界に残し、ワシが失うものも大きかろうな。
じゃがの、それ以上にお主がワシに与えたものは大きかった。
そのようなものをワシに与えたお主を、見捨ててのうのうとこの世界で生きていけるほど、
ワシは厚顔ではないぞ。
『お主が此の世界を捨て、機を待つというのであれば、ワシも共に行くぞ。』
「・・・おや?夜一サン、お散歩の帰りですか?」
「・・・まあのぅ。
そういえば、散歩の途中で懐かしいものを見つけたんじゃ。
1本先の通りの家の庭に咲いておった。
現世では、此の時期に咲くんじゃな・・・
じゃが、どう見てもお主から貰った花よりもずっと綺麗な空色をしとったぞ。」
「そりゃぁ、現世では品種改良だの何だのしてますからねェ。」
「・・・お主の好きそうな分野じゃの。」
「ハハハ、私がですか?・・・」
「・・・夜一サン、貴方は今・・・自由ですか?」
「ああ・・・自由じゃ。」
突発的にいじってみた作品です。
でも、やっぱり・・・夜一さんと浦原さんの友情はいいなぁ・・・と思う私がいます。
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