※ かなりパラレル色が強い、かもしれません。。。

これもギンルキ、の扱いで良いのかどうか・・・悩ましいです。

及第点に達していなかったら、ごめんなさい!!

 

 

 

「 月夜に誘う妖花 」
 
 
  
 
 
 
『・・・朽木の見目好いお嬢さん、
ボクの一夜限りの夢につきおうてくれはりません?
 
そ、一晩だけ・・・
 
一晩だけ、今宵一夜だけでええんよ?
 
 
 
・・・ボクと一緒に、遊ばへん?』
 
 
 
 
 
 
「夏本番とはいえ、朝はまだ清々しい空気で心地よいな。」
 
この夏、自室の傍に植えられた朝顔を眺めるのが、私の朝一番の日課となっていた。
 
赤や青、薄い桃色や空色や白・・・
最近は使用人によって変わり咲きのものも植えられるようになり、
それらが花開き、様々な表情を見せてくれるのが楽しみになっていたのだ。
 
「どれどれ・・・今日は空色の花がとても綺麗だな。
・・・おや?」
 
見れば、もう今にも咲きそうな白いつぼみが・・・開かずにいた。
 
「・・・お前はどうして、他の朝顔たちと一緒に開かないのか?」
 
そっとその白い蕾に手を伸ばそうとしたとき、
ちくり、と指先に痛みが走った。
 
 
「・・・棘?・・・朝顔に・・・?」
 
うっすらと、指先に血が滲む。
 
予想もしなかった痛みに驚きながら暫く指先を見つめていたが、
ルキア様、と・・・侍女が朝餉の為に私を呼ぶのが聞こえてきた。
・・・私は立ち上がり、其の声のするほうへ。
 
「きっと朝顔に隠れていた蟻が驚いて指を刺したのだろう。
そうであれば私はそやつらに悪いことをしたな。」
 
・・・単純にそう思った。
そして、あとで侍医に少し見てもらえばそれでよい、と。
 
 
 
 
 
『・・・朽木の見目好いお嬢さん、
・・・もっとボクの傍に来ぃひんか?
 
もっともっと、綺麗なお嬢さんにしてあげる。
 
・・・ボクの棘で。』
 
 
 
 
 
 
夕刻も過ぎ、辺りを鉄紺の帳が包み込む。
其の闇を照らす月の光がとても美しく、庭の池は天の星々を地上に映し輝いていた。
 
「夏の夜も涼やかで、心地よいものだな。」
 
ふと・・・蚊遣りの香とは違う甘い香りが、夜風に乗って・・・
それはとても甘く、人を誘うような。
 
「おや?」
 
縁側から庭に降り、その香の元を辿れば、
今朝方見つけた・・・開かぬ白い蕾がようやく花開いていた。
月の光に照らされて、白い花は美しい銀色に輝いていた。
 
 
「そうか、お前は・・・夜顔だったのか。道理で朝には咲かぬわけだな。
しかし、何時の間に朝顔に混ざっていたのだろう?
まあ良い・・・それにしても、お前はとても良い香りがするのだな。
甘くて・・・人をひきつけるような・・・」
 
 
私が其の花に顔を近づけた、時だった・・・
 
 
 
 
 
 
『・・・朽木の見目好いお嬢さん、ボクと一緒に遊ばへん?』
 
ふと、背後に気配を感じ、振り返りながら・・・
誰だ、と声を出そうとしたが、私の喉は締め付けられたように音を発する事は無く。
 
そこには、青白く輝く月を背に、銀色の短い髪を持った男が。
背丈は兄様より若干高く、痩躯で・・・柳のようにゆらりと立ち、
つかみどころの無い、張り付いたような笑顔のまま、私をじっと見下ろしていた。
 
『そんな怖がらなくてもええのに。
・・・拒まなければ、ボクからはなにもしぃひん。』
 
「お、お前は一体・・・」
 
やっとのことで声を発すれば、男は・・・ああ、そやな・・・と。
 
『ボクは・・・そうやね、ギン、とでも呼んでくれはったらえぇわ。』
 
「違う、何処からこの屋敷に・・・」
 
『え?・・・何を言わはるん?
 
ボクはずっと此処におったのに。
ずぅっと前から、此処で見上げてきたのに。
 
・・・やっと、朽木の見目好いお嬢さんとお話が出来るわ、と思ったのに。』
 
 
 
言いようの無い恐怖が全身を駆け回った・・・だから、
私は、この男から逃げようとした。
声を上げて屋敷の者に助けを求めようとした・・・。
 
だが、足は地面に縫い付けられたように動かず、
そして・・・
 
 
『アカンなぁ、ボクから逃げることなんて出来ひんって。
・・・今宵、朽木の見目好いお嬢さんはボクのもの。
 
夜明けの陽が射すまでは、蔓でも何でも絡めて・・・逃がしはしぃひんよ。』
 
 
 
男の手が私の手首をを掴む。
チクリ、と・・・今朝方感じた痛みが走る。
 
・・・まさか、貴様は・・・・
 
『おや、また刺してしもうたか・・・ごめんな。
でも、朽木の見目好いお嬢さんの白い肌には、ボクがつけた傷がよう映えて・・・
・・・ほんまに綺麗や。
 
拒まなければ何もしいひん・・・てボク、自分で言うたけれど、
こんなに綺麗になるんやったら、もっとボクの棘で、傷つけとうなるわ。
 
「は、離せ!!・・・」
 
『まァ、傷つけとうなるなんてのは・・・嘘や。
せやけど、離さへん。
 
言うたやろ?離しも逃がしもしぃひん、て。
・・・この綺麗な傷も、この見目好いお嬢さんも、今宵だけはボクのものや。
 
朝明けのときが来たら、帰してあげる。
それまではボクと一緒に遊んでくれへん?
 
・・・大丈夫、ボクは口が固いんよ?誰にも告げ口なんて、』
 
「だ、誰が貴様なんかと・・・!!」
 
『しゃあないなぁ・・・そんな言わはるなら、』
 
・・・先程誘われた甘い香と共に、男の腕が私を包み、
その甘い香が私の中に流れ込む。
 
まるで神経を毒に侵されたかのように私の体は自由を失い、男に身を預けるように崩れた。
やがて私を覗き込む男の顔が・・・霞んで、ぼんやりとしてきた。
 
いけない、このままでは気を失ってしまう・・・
何とかこの男から逃げ、ね・・・ば・・・・
 
 
 
『やっと会えたのに・・・残念やな・・・。
・・・ボクはただ、朽木の見目好いお嬢さんと遊びたかった・・・それだけやったのに。
 
一緒に遊べるのは・・・この一夜だけなんよ。
あかん、つまらんわ・・・。
 
せやけど、今宵だけは、このお嬢さんはボクのもの。
しゃあない、遊んでくれへんでもええよ。
 
・・・こうして一晩だけ、ボクの傍にいてくれはるなら・・・。』
 
 
薄れ行く意識の中で、
 
私を見つめる男の眼差しは、鋭く・・・けれども哀しげで・・・・
まるで男が背にしている、夜空に浮かぶ銀色の月のような・・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
朝明けの空が茜色に染まる頃・・・
 
「ルキア様、ルキア様・・・!!」
 
侍女が必死に私を揺り起こし、その後には心配そうに覗き込む清家殿と・・・
夜勤を終えて屋敷に戻られた、表情を崩すことなく私を見下ろす兄様が。
 
「・・・え・・・私は・・・・」
 
 
 
 
侍女に聞けば、朝方・・・私がいつものように朝顔を見に行っているのだと思い、
縁側から覗いたところ・・・朝顔の前で眠るように倒れていたのだという。
そこで「ルキア様!!」と侍女が叫んだとき、偶々夜勤から戻られた兄様と・・・
兄様を出迎えられていた清家殿が聞きつけ、此処に来られたのだと。
 
「ルキア様、如何為されたのですか?」
 
柔和な口調で、清家殿は私に語りかけるが、その後ろにいらっしゃる兄様の目が怖くて。
 
「・・・その、つい・・・涼しくて心地よかったから、外に出たら、
どうやらそのまま眠ってしまったみたいで・・・」
 
身を起こそうとしたとき、ちくり、と・・・
 
「・・・!!」
 
私の腕や足には・・・朝顔のようでいてそうではない、棘のある蔓が絡みつき、
其の先には・・・夜明けと共にしぼんだ白い花が。
 
 
 
「ルキア様、お風邪を召されていなければ良いのですが・・・
とにかく、一度お部屋にお戻りくださいませ。
白哉様のお後でルキア様の湯浴みの準備をさせますゆえ、」
 
そんな清家殿の言葉を遮り、淡々と兄様が・・・私を見下ろしながら、
 
「清家、先にルキアの泥を落としてやれ。私はその後でよい。」
「・・・では、ルキア様・・・湯殿へ。」
 
 
清家殿の指示で、侍女に支えられながら湯殿へ向かった。
まだぼんやりとしか考えられない頭の中は・・・
兄様や清家殿に申し訳ない気持ちと、昨夜のことで一杯だった。
 
銀色の髪をした、ギンと名乗ったあの男・・・
・・・あれは、夢だったのだろうか・・・?
 
・・・夜顔の香と、昨朝受けた棘の痛みが作り出した幻だったのだろうか・・・?
 
 
 
 
「清家、」
「はい、白哉様」
「・・・この白花を引き抜いて捨て置け。夜顔の香に中てられたのだろう。」
「御意。」
 
 
 
 
『・・・朽木の見目好いお嬢さん、
 
ボクのこと、お兄さんにはバレてしもうたわ。
・・・ボクは口が固いのに、残念やな。
 
またいつかの夜に、お嬢さんの許に会いに行きますわ。
 
・・・その時こそ、ボクと一緒に遊んでな?』

 

 

夜顔の花言葉・・・『妖艶』 『一夜の思い出』 『夜』

朝顔とは違い全身に棘を持ち、種を包む実は固い。

夜開く花には芳香がある。

 

・・・といったところから思いついたブツです。

細かいところはちょこちょこと練りましたが。。。ギン氏は難しいですね。。。

 

 

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