『お前を紅く染めるのは』
~酔芙蓉・うらVer~
この家の者として纏う絢爛たる衣の奥に
あるいは一人の死神として纏うぬばたまの衣の奥に
未だ誰もその真の白さを知らぬ玉肌を
わざと誰の眼にも触れぬよう包み隠させて居るのに
何も知らぬのか、それとも気付かぬのか
袖から、袂から、襟元から、
お前はその白磁の如き肌が見えても気にもせず
窘めようにもその頬を薄紅に染めながら無邪気に笑われては私も強く言えず
まるで夏空の下、刻々と流れる時の中で彩りを変える酔芙蓉のように、
この娘は流れる時と共に様々な彩りを纏うようになった
この家に身を寄せた頃は、生気さえ感じさせぬほどの白を纏い、
目を離せば幻であったかのように消えてしまうのではないかとさえ思えた
だが今は、その頬を愛らしい薄紅に染めることもあれば、
粗相を偶然にも私に見られた場合、恥ずかしさ故にその頬を深紅に染める
その姿は本物の酔芙蓉の花のように愛らしくもあり、
時にお前を咎めようとする私の意を揺らすこともある
お前がふとした時に彩りを纏うその姿を見れば、
私はそれ以上叱ることも窘めることも出来ず、
苦笑いを僅かに浮かべながらも・・・つい私はお前の自由にさせてしまうのだ
酔芙蓉を紅く染めゆくのは流れる時の成せる業であり、
お前が彩りを纏えるようになったのも、流れる時の成した業ではあろう
薄紅や紅にお前が頬を染めるとき、
飾られも縛られもせぬ有りの侭のお前が其処に居り、
その自由な姿をこの眼に映すこともまた、一種の安堵を私にもたらす
それもまた、事実だ
だが、
お前を真に紅く染めるのは、時の流れなどではない
そしてお前を染めゆく其の紅は、お前に自由を与えはしない
いずれはお前も、知るときが来る
今まで纏っていた紅が、まやかしの彩りであったことを
これからお前を染める紅こそが、お前を真に彩るものであることを
お前を 紅 く 染めるのは
衣の帯を解いてお前の白さを愛でることが許され、
甘美な旋律を奏でるようにお前に触れ薄紅に其の肌を染めることが叶い、
お前の甘い肌に唇を寄せ紅の花弁を散らすことが出来、
そして
束の間の痛みと共に絶え間のない快楽に酔わせ、
只一人の男の為に一度だけ流す紅涙でお前自身を彩らせ、
哀しみの嗚咽の後に悦びの吐息を漏らさせ、
悦楽の頂に昇りつめ力を失ったしなやかな薄紅の肢体を抱きとめ、
お前を思うがままに彩れるのは、
お前を思うがままに酔わせられるのは、
・・・この私だ
そう、お前を紅く染めるのは此の私のみ
只この私のみを恋い求めるような紅の色に、お前を
お前の其の心も
お前の其の身体も
私が此の手でお前を捕らえ、一度紅く染め始めれば最後、
もう二度と白には戻らぬ
・・・戻すつもりも無い
故に、せめて・・・
その時が来るまでは、お前に自由を与えよう
清らな白を纏い、胡蝶の様に可憐に舞うがいい
はにかむ時には頬を薄紅に染めても良い
粗相を見られた時や駄々をこねる時のように紅く染めても良い
だが其れも私の掌の中、腕の中、懐の中でのみ
まやかしの自由は嫌だとお前は嘆くやもしれぬが
お前を放つ真似は出来ぬ
他の誰の色にも、染めさせはせぬ
他の誰の想いにも、酔わせはせぬ
他の誰の許にも、逃しはせぬ
そう、
誰にも、渡さぬ
此の手で紅に染めると決めた、お前を