「茅守 ~ それは心を繋ぐ輪 ~」
「兄様、」
「何用か。」
「あの、これを・・・。」
「草の輪、か?」
「茅の輪、です。」
「あの、その・・・現世で見たのです。これよりももっとずっと大きいのを。」
「それがどうした?」
「それは人がくぐれるほどに大きなものだったのですが、由来を聞いたところ・・・
災いをよけるまじないとして腰につけられるほどに小さなものだったのだと聞きまして。
現世でも小さな茅の輪があったのですが、あいにく込み合っていて入手できなかったものですから・・・。」
「それが何故此処にある?」
「・・・恥ずかしながら、自分で作ってみたのです。
恋次と一緒に、昔の記憶をたどって、茅が生えていた場所を思い出しながら行ってみたのです。」
「おいルキア、茅なんかどーすんだよ。」
「これでいい物を作るのだ。」
「ハァ?こんな茅で?」
「恋次、貴様にはこの茅が流魂街で暮らしていた頃に食べていた『おやつ』にしか見えなかろうな。」
「それはオメーも一緒だろうがルキア。」
「そのお陰で貴様に騙されてガマの穂を食べる羽目になったのだったな。」
「あ・・・。」
「でもルキア、いいものって何だ?」
「何のことはない、輪っかだ。」
「輪っか?そんなモン何に使うんだよ。」
「別に使いはしないのだ。ただ・・・・」
「?」
「何事も無く難を切り抜け、息災でありますように、と・・・それだけだ。」
「つまりはお守りみたいなもんか。」
「ま、そういうところだ。」
「でもそんな茅で作るもんか、そういうのってよ。」
「現世ではこういうものでもお守りになるらしいぞ。何なら恋次、貴様にも作ってやろうか?」
「オメェが作るよりも、俺が作った方が綺麗で早そうだ。」
「ほぅら、俺のほうが早い。」
「う、煩い!!」
「ルキア、手伝ってやろうか?」
「手伝いなど要らぬ!!・・・っ!!!」
「オイ大丈夫か?手を切ったか?」
「ちょっと刺したり切れたりしただけだ。」
「其れが完成するときには紅白まだらの輪っかになりそうだな。
それ以前に結構かすり傷だらけだしな。やっぱり手伝おうか?」
「いや、此れはどうしても私一人でやりたいのだ。」
「確か現世では大祓という儀式があるという。此の時期に行うのは年越の祓え、というものだそうだが。
その茅の輪を模して作ったというのか?」
「詳しい事は・・・その大きな輪の横に書かれていた由来をさっと眺めただけですので、
浅学な私にはあまり理解が出来なかったのですが、それでもこういう茅で作った輪がお守りになると知って・・・その・・・。」
「其れにしては、かなり小さいな。お前の手のひらよりも小さいが。」
「形も不恰好ですし、現世で見たものとは似ても似つかないものですが・・・・
大きさも、本当に不器用なので、ごく小さいものしか作れなくて萱を束ねて小さな輪っかにしただけの状態になってしまいました。
恋次のほうがとても器用で、もっと大きくてしっかりした茅の輪を作っておりました。
壁掛けにするとよい大きさでしたが・・・。
でも逆に此の大きさなら、気軽にお持ち頂けると思って、」
「ルキア、お前は私がそのような迷信や願掛けに左右されるような弱い存在だと思うか。」
「い、いえ、そんな・・・。」
―そうだ・・・兄様は、迷信などに左右されない方だ。そう・・・
どんなに風向きが悪かろうと、その風向きさえもご自身の力で変えられて行く方。
そんな兄様に、このような願掛けの類のものは・・・不要だったな。
・・・何を考えていたのだろうか、私は。
「手だけでなく、ところどころ傷だらけだな。恋次に茅を取ってもらったのではないのか?」
「あ・・・自分で茅の中に分け入ったものですから。
不器用なのはわかっていたので、小さな輪を作るために小さくてやわらかめの茅を探そうとしたのです。」
「私の息災を願う茅の輪を作りながら、お前が難を被ってどうするのやら。」
「申し訳御座いません。」
「お前がそのような状態になってまで、私はお前に己の息災を願われたくは無いのだが。」
―お前の些細な怪我一つだけでも揺れるような私が、どうしてお前の息災を願わずにいられようか。
私自身には願掛けの類は不要だが、お前のことに関しては・・・自分でも愚かだと思う程に些細な迷信に、いとも容易く左右されてしまう。
・・・お前にこそ、息災を願う茅の輪が必要だろうに。
年に2度ほど神社で拝見することもあるだろう、茅の輪。
もともとは腰からぶら下げてお守りとしていたんだそうです。。。
なお、チガヤは本当にサトウキビのように糖分を含んでいて、甘いそうです。
昔はおやつつ代わりに此れを齧ったとか。
(ガマはちっとも美味しくなかったけれども。)