『桃の節句を控えて』 ~別名・良くも悪くも期待を裏切らない某家当主の思考~


(女性死神協会の、とある如月の会合後)


「ねぇねぇ、あたしねー、つるりんにお雛様作ってもらったの!」
「え?やちる、一角ってそんなに器用だったっけ?」
「つるりんはローラースルーゴーゴーも作ってくれたし、すごくお人形を作るのも上手なんだよ!
あたしもびっくりしたんだけれどね、お内裏様が剣ちゃんで、お雛様があたしなの。
でもお着物はゆみちーが作ってくれたの。」
「・・・それは妥当かもしれませんね、弓親さんなら着物の縫製だけでなく重ねの色目とかこだわりそうですから。」
「そういう七緒のところは?」
「隊長が『飾ろうよ~』と仰っていましたが、どうせ雛祭りを決め込んで甘酒を呷る宴会を開きたいだけなので、速攻で却下しましたよ。」
「でも七緒が頼めば、京楽隊長なら良いものをあつらえそうなのに、勿体無いわねぇ。」

「そういえば朽木、アンタのところって雛人形はきっと凄いんでしょ?」
「え?」
「そうですよね、きっと朽木さんのところなら、朽木隊長が凄いものを」
「私の家には、雛飾りは無いんです。」

「え???????」

「だって、アンタ、朽木隊長の妹でしょ?あの隊長がそんな」
「あ、もしかして朽木さん・・・一応、上にお姉さんがいるから、ですか?
うちの清音も上に私がいるから、清音用の雛人形無いし・・・。」
「でもそうだとしても、ならばお姉さんのはあるのでは。お姉さんの形見とかでは残っていないのですか?」
「はい、無いのです・・・伊勢副隊長。姉はほぼ身一つで朽木家に入ったので、嫁入り道具として雛飾りを持参しませんでした。
その後も誂えたことは無いそうです。
ですので姉の形見としても・・・雛飾りはありません。」

「(でもあの朽木隊長でしょう?絶対に雛人形の迷信を知っていそうだし。)」
「(ああ、あの『雛人形を何時までも飾っていると嫁に行き遅れる』、というものですね。その迷信自体はかなり最近のものですが。)」
「(何か理由があるのでしょうか?あの四大貴族の朽木家ですし。もしかしたら朽木さんがお嫁に行かれる際に作るつもりで、まだ用意していないとか・・・)」
「(それは無いんじゃないの勇音。どう頑張っても嫁に出しそうに無いじゃない、あの人。)」

「ねえ朽木、なんで雛人形を作ってもらわなかったの?」
「うちの清音も私の雛人形を見ては『お姉ちゃんばっかりずるい!私も市松人形じゃなくて雛人形が欲しい!』って言うくらいなのに。」
「特に私も欲しいと思わなかったのもありますし、仮に欲しくても・・・言いづらかった状況でしたので。」
「今なら『欲しい』と言えばつくってくれそうですよね。」
「あ、でも・・・虎徹副隊長が今仰っていた『市松人形」ならありますよ。確かあれも兄様が節句に際して作って下さったものです。」


-白哉様、もう直ぐ暦も弥生に変わりますね。
-何故だ、何故なのだ・・・・
-・・・白哉様?
-何故ルキアは雛飾りを欲しいと私に強請らぬのだ。
 今年だけでない、昨年も、その前も・・・此の家に来てから一度も強請ったことがないとは。
-・・・、
 恐らくはルキア様は慎ましいお人柄ゆえ、白哉様に強請るのをためらわれていらっしゃるのでしょう。

-しかしながら、何故、雛飾りを?
-ルキアもまだまだ年頃の娘だ。この季節になれば静霊廷でも桃の節句の話題になろう。
 ルキアも雛飾りの話を耳にし、そして羨む事だろう。
 もしもそこで私に恥ずかしがりながらも『雛飾りが欲しい』と私に強請ってくれれば、
 私は鷹揚に其れに答えてやり、 朽木の娘に相応しいものを誂えてやれる。
 そのようなやり取り一つであろうと、より一層ルキアとの距離を縮める良い機会になろうかと。
-それは素晴らしいお考えでございます。
-そして気に入ったのであれば『縁起物なのだから何時までも飾っておけ』と言えるのだが・・・。
-しかしそれではルキア様の御輿入れが、
-清家、御前はそのような現世の日も浅い迷信に囚われているのか?
-いえ、そんな滅相も無い。
 
-だが、ルキアはいっこうに私に強請らぬ。私のことを畏れているのか?
-きっとルキア様は、元々あまり物をお強請りにならねないお方でございます。
 また、他家で雛飾りをご覧になられて、もしも白哉様に雛飾りをお強請りになったら
 より華麗で贅を尽くされたものを用意されるのではないか、と思われていらっしゃるのやもしれませぬ。
-それは無論だ。朽木の名に恥じぬように尸魂界随一の名工の手でそれは絢爛豪華な・・・・
-それをルキア様は慮っていらっしゃるのでしょう、とても奥ゆかしいお方ですから。

-ではどうすればよいのだ、これではいつまでたっても
-白哉様、では市松人形をお誂えになられては如何でしょうか?
-何と?
-雛人形はその御家に最初にお生まれになられた女のお子様に贈られるもので、
 次の女のお子様には市松人形を贈られることがあるそうでございます。
 もちろん、雛飾りと共に桃の節句には飾られるもので御座います。
-ほう。
-ルキア様も、豪奢な雛飾りよりは愛らしい市松人形でしたら、きっとお喜びになられるのでは。
 着物の柄も、ルキア様のお好きな兎の柄にしても宜しいでしょうし、
 または鞠ではなくて兎を抱いたお姿にしても大層愛らしいのではないでしょうか?
-そうか。それに市松人形の方が雛飾りよりも場所を取らず年中何も気にせず飾っておけるであろうな。
 もっとも、雛飾りの置き場所に困るような部屋など、此の屋敷には無いのだが。
-・・・ええ、そうでございますよ。
 (思いっきり現世の迷信を気に為されていらっしゃるじゃございませんか、白哉様!!)

 


「るっきー、そのお人形には、お雛様みたくお花飾ってるの?」
「そうですよ。一応、桃の節句の雛飾り代わりに頂いたものですので、桃の花を飾ったりしています。
他にも節句の日には雛霰や菱餅を供えたりもしますね。
他にも、季節ごとに桜の枝を飾ったり、花菖蒲を添えたり、秋には菊や楓の枝を飾ったり・・・・」

「・・・アンタ、その雛人形代わりの市松人形、年がら年中ずっと飾ったままなの?」
「はい・・・私も愛らしい兎を抱きかかえた姿の人形を気に入っておりますし、
兄様も『市松人形も縁起物故、気に入ったのであればずっと飾っておくが良い』と仰っておりましたので。
逆に仕舞うと・・・兄様に訝しがられそうです。」
「確かに・・・その人形が気に入らなくなったと勘違いして、別の人形や・・・
それこそ仕舞い込んだら今度は凄い勢いで雛人形を用意し出しそうですね。」
「きっと其れを、今度は是が非でも一年中出しっぱなしにさせそう・・・。」

「やっぱり朽木隊長は、予想を裏切らない方のようですね。」
「え?何の予想ですか?伊勢副隊長・・・」
「朽木さん、貴女は別に気にしなくてもいいのですよ。」



『ルキア』と『雛人形』だと・・・
『ルキアがお雛様だとしたらお内裏様は誰だ??選手権』または
『あのジンクスに関するシスコン攻防戦』
ネタになりそうなので・・・
敢えて「朽木家には雛人形が無い」という設定にしたらどうなるかな?と。
(それでも充分に兄様は期待を裏切らない立ち回りを演じてくれそうですので、拙宅では結局後者のネタになりそうですが。)

ちなみに拙宅地方では、雛人形と共に飾った市松人形は、雛人形と同じタイミングで仕舞っているようです。
(特にそういう目的なく飾られているものは、そのまま飾りっぱなしのようですが・・・。)
何せ家に無いから、分からない・・・他の地域では、どうなのでしょうか。

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