『白く小さなお前にだけは』



あの荒廃した犬吊の土地にあっても、
優しく春を告げるかのように、お前は白い花を咲かせてくれた。

食うや食わずやの日々の中で、
お前の葉を食べることにより、此の命を繋ぐことができた。

具合を悪くしても薬さえ手に出来なかったが、
干され煎じられたお前は、万能薬として私を救ってくれた。

そして今、私はここに居る。
お前や、他の多くのものに生かされて、助けられて、支えられて。



場所を選ばず、何処にでも咲く、薺の花。
此の小さな野の花にだって力がある。

・・・私には今、何が出来るだろうか。

悩むだけ無駄、か。
私に出来ることは、高が知れている。


・・・だが、何もしないよりは、数段良い。



春の風に揺れながら、地に根を張り天を仰ぐ、
白く小さな野の花であるお前。

他を支えるだけの力を秘めている、強いお前。

何時だって春を告げてくれた、助けてくれた・・・
そんなお前にだけは、私は笑われぬようにせねばならぬな。

 

 

薺、です。よく道端や空き地、公園の隅っこに生えている「ぺんぺん草」。

でも、救貧植物としての用途の広さは中々のスペック。

儚げに見えたりか弱そうに見えて、実は強くて、逞しい野の花です。

 

 

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