白雪(桜)

『桜下問答』



兄様、
何だ。

今年も桜が咲きましたね。
そうだな。

漸く春になったのですね。
まだ花冷えもするが、昼間は心地よかろうな。

雲ひとつ無い青空に映えて、本当に桜が綺麗ですね。
果てを知らぬ蒼穹に映える其れは、見上げれば見上げるほど、清々しさを通り越し悲しみさえ覚えるのだが。


兄様、
何だ。

何故、悲しみは存在するのでしょうか。
其れは感情を持ち合わせて生きているが故だ。

何故、感情には悲しみだけではなく喜びも存在するのでしょうか。
其れは悲しみという一つだけの感情だけでは他者と通じ合えないやもしれぬからか。

何故、他者と通じ合わねはならないのでしょうか。
其れは己の弱みを他者の強みで補うため、其の逆もあろうな。

何故、弱みは存在するのでしょうか。
其れは各々の存在が『違う』からだ。

何故、『違う』のでしょうか。
其れは単一よりは複雑なほうが淘汰されても耐えうる確率が上がるからであろう。


兄様、
何だ。

何故、桜や・・・花は咲くのでしょうか。
其れは次世代に種を残し世を託すためだろう。

何故、次世代に託すのでしょうか。
其れは次世代が生きる世に期待があるからやもしれぬ。

何故、期待を抱くのでしょう。
其れは今を生きる世代が過酷であるからだろうか。

何故、過酷は存在するのでしょう。
其れは・・・・

何故、過酷の中でも生きてゆけるのでしょうか。
其れは時の流れるにつれて今の世に変化がもたらされ、また其れを欲するからだろう。


兄様、
何だ。

何故、花には沢山の種類があるのでしょう。
其れもまた生き抜く術として様々なものを試し淘汰された結果であり、『違い』と同じだ。

何故、同じ桜の花にも品種の違いが有るのでしょう。
其れはその様な違いをわざわざ求めたが故であろう。

何故、生存に関わらないのに違いを求めたのでしょう。
其れは全てが同じでは生きるにも愛でるにも詰まらぬからであろうか。


あ、白い桜・・・
白雪、か。

春なのに、まるで此処だけ雪が降っているみたいです。
ああ、そうだな。

咲き誇る『桜色』の桜も綺麗ですが、この白い桜も清らかで綺麗です。
そうか。

それに、白雪の花弁は他の桜とは違う、悲しみを包むような優しさ感じます。
何故?

何にも染まらぬ白い花が、傷ついた大地を覆い包む雪のように感じたのです。
他の色の桜には無い、白雪のみが秘める力・・・か。

兄様?
私には無く、お前のみが持つものも有るのだろうな。


兄様、
何だ。

何故、白い桜が有るのでしょうか。
其れは、他とは違う物を美しいと思う者が居り、違いに価値を見出し、護りぬいたのであろうか。

何故、綺麗だと思えるのでしょうか。
其れは綺麗だと思うに足る気持ちの余裕がお前に今あるからだろう。

何故、気持ちの余裕が生まれるのでしょう。
其れは今を生きるにあたり気概を持つことが出来るが故。

何故、気概が生じるのでしょう。
其れは、其処に・・・大なり小なり望みというものがあり、その存在に気付けているからであろうか。


兄様、
何だ。

望みというものは、どこにでも有るものでしょうか。
・・・恐らくは。

何故、望みを欲し、抱くのでしょうか。
其れは・・・今を生きるためであろう。

何故、生きようとするのでしょう。
其れはいつの日か過酷さえも思い出として話せるようにするため、だろうか。

・・・兄様は、如何ですか。
・・・お前は、如何なのか。


私は・・・・


兄様、
何だ。

桜が、本当に綺麗ですね。
ああ、そうだな。

 

 

あくまでも、桜の時期のお散歩での一コマ、です。

でも、桜の花は美しさや可憐さだけではなく、儚さや悲しみをも含有しているように感じます。

個人的には、彩りや花弁そのものに、優しさや柔らかさも感じます。

・・・兄は薄紅の桜を見上げて悲しみを感じ、妹は桜を見上げてその美しさを愛でる。

・・・そして白雪のような桜に妹は清らかさを覚え、兄は同じ桜に(自分には無い)温もりを覚える。

 

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