『季節の欠片を拾いながら』
あの川の土手に咲いている菜の花
「一護、菜の花は現世にも咲いているのだな。」
「お前の住んでるトコにも咲いてんだろ。菜の花くらい。」
「いや・・・私の住まう処は整然と建物が並ぶ、作られ隔離された場所だからな。
咲いていた記憶が無いのだ。」
お前と二人、歩いたあの時にも咲いていた花。
あの時、お前・・・とても懐かしそうな顔をしていたんだよな。
咲いていた記憶がない、と言っていたくせに。
この窓から見える月
「ルキア、お前月なんか見て何か楽しいか?」
「現世の月も、変わらないのだなと思ってな。」
「あの世にも月なんてあるのかよ。」
「あの世ではない、尸魂界だ。」
お前が窓の桟に肘を付きながらぼんやりと見上げていた朧月。
あの時、お前・・・何だか悲しそうな顔をして見上げていたんだよな。
俺はただ、力を失って帰れないからだと思っていた。
この頬を打つ風
「一護、やはり春は良いな!!風も暖かくて陽も柔らかくて!!
この『わんぴーす』の裾も程よくひらひらと揺れていて綺麗だと思わないか?」
「けどよ・・・やっぱ春の風は強いな。頬を叩かれるような感じのヤツもあるし。」
「痛たたたたたたたた・・・・」
「おい、どうした?」
「風で巻きあがった埃が目に入ったのだ。」
「大丈夫か?目は擦んなよ・・・目薬は持ってねーのか?濯ぐくらいは出来るだろ。」
「持ってるわけ無いだろう?後で浦原にでも」
「目薬くらいそこらの薬局で買ってやるから!!」
お前が舞い上がる埃と戦いながらも、軽やかに菜の花色のワンピースを遊ばせていた風。
あの時のお前、目を痛がりながらも本当に楽しそうで嬉しそうで・・・。
見ているこっちまで浮き足立つようだった。
あの時と同じように、
菜の花は土手で満開になって、
綺麗な朧月が出て、
風も暖かく強く吹き抜けて、
春に、なったというのに。
なのによ・・・・
春風が俺の横をすり抜けていくように、
時間は俺を取り残して駆け抜けていく。
お前と一緒に過ごした季節の欠片を拾いながら、
一度歩みを止めた俺は、追いつくことが出来るだろうか、
俺の一歩先を行く、お前が生きる世界の時間に。
・・・また、一緒に歩くことが出来るだろうか。
イメージとしては、一護氏が力を失った直後の春、くらいのイメージでしょうか。
頑張れ一護氏!!
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