『垣根の望むは・・・』
あの花開く鉄仙のように・・・
お前は慎ましくも艶やかに、紫の彩を放ち咲き誇る。
そのようなお前だからこそ、ふと・・・思うことがある。
鉄仙の蔓は、とても強い。
四つ目の垣根に其の身を頼りなく委ね支えるように見えるも、
絶対に離さぬと云わんばかりに確りと絡みつくあの鉄線の蔓のように、
私のことも、お前のしなやかなその腕で確りと絡め捕らえてしまうがよいのに、と。
二度とお前から私が目を背けることなど出来ぬように、
二度とお前から私が離れることなどさせぬために、
私の心も、身体も、矜持も、誇りも、何もかもお前以外の誰のものにならぬように。
そして私を絡み捕らえた末、お前の全てを私に委ねてしまうが良いのに。
お前の全てを・・・心も身体も誇りも何もかもを。
そうすれば、何に憚ることもなくお前の傍らに居られるのだ。
二度と私に畏怖の眼差しを向けぬだろうお前と。
二度と私から離れ逃げぬだろうお前と。
・・・だが其の時、本当に身を委ねるは、さて、お前か・・・それとも私か。
かつてはお前に全てを捨てよと命ずれば良かっただけの事。
かつては私自らに全てを背負えと命ずれば良かっただけの事。
それはいとも容易く行われてきた、枷嵌め。
私の枷は朽木のために嵌められ、お前の枷は私のために嵌められたもの。
私は朽木の為だけに存在し、お前は私のためだけに存在することを否応無く突きつけるもの。
だが、今のお前と私は違う。
お前が私の指示でで捨てねばならぬものは何ひとつ無く、
私が背負うと誓ったものの殆どは、誇りに比べれば瑣末なものだ。
既に私は知っている。
最早お前に枷を嵌め、無理に繋ぎ止めることも要らぬ。
私への枷も最早容易く壊せるほどの代物になっている。
だからこそ、お前に求めてしまう。
今度はお前が私を捕らえ繋ぎ止めてくれたなら、と。
お前が私に己の意思で全てを委ねてくれたなら、と。
いっそのこと、私がお前に全てを委ねてしまえたならば、と。
お前が私に対し其れを出来ぬ性分であることも理解している。
お前の意に反して私が其れを求めることもあってはならぬ。
私がお前に全てを委ね、お前を護れぬままに共倒れするような真似は以ての外。
では私は何を望むのか。
死神として凛と咲くお前の息災を只願うことか。
この鬱屈とした世界に放たれ続ける紫の彩を只愛でることか。
お前に対して何も為すことは許されぬのか?
お前がお前として咲くその姿を見守るだけか?
お前自身の為に咲き誇る姿をそっと愛でるだけしか許されぬのか?
いや、それだけではならぬ、許さぬ、耐えられぬ。
私の望む事は、私の誇りを護ること。
私の誇り、それは・・・・
・・・お前。
鉄仙が結んだ実の如き髪がお前のものとなり、いずれ散りゆくその時まで、
お前が自ら望んで其の身を委ねられるような垣根の如く、
何者よりもお前の傍に、在り続けること。
私はお前の全てに捕らえられることを願い、
私に委ねられたお前の全てを支え護ることを望むだろう。
・・・そしていずれは私の為に、その花が咲き誇らんことをも。
鉄仙・・・クレマチスは、様々な色や形がありますね。
受け受けしい兄様ですが・・・実はルキアから攻められたい?という願望があったら面白いな、と。