『 ささのは ~或る年の七夕の頃に~ 』
「あら?こんな時間にどうされたのですか朽木隊長。」
「只の散歩だ。」
「見てくださいな・・・凄いでしょう?七夕飾り。
今年は浮竹隊長が暑さで倒れてしまったから音頭が取れなくて、代わりに四番隊で飾ることにしたんですよ。
でも、十三番隊や他の隊の皆さんがお手伝いをして下さって、こんなに素敵な飾りになったのですよ。
短冊もほら、たくさん。」
「・・・・」
「朽木さんも、暑い中飾り付けを手伝ってくださったんです。
ほら、あのワカメ大使は・・・朽木さんが描いたんですよ。
彼女は『兄様には遠く及ばない稚拙な絵ですが』などと言っていましたが、可愛いでしょう?」
「・・・・」
「確か、あの辺りに朽木さんの短冊があったはず。
朽木隊長も、宜しければ短冊をどうぞ。筆はあちらにありますので。
・・・では、私はこの辺で。」
さら、さら、さらり。
しゃら、しゃら、しゃらり。
・・・ひらり。
「・・・・」
― 皆が息災でありますように。
あと、朽木の名に恥じぬよう、少しでも昇進が出来たら・・・。
「・・・下らぬ。
何故、お前は・・・・」
さら、さら、さらり。
しゃら、しゃら、しゃらり。
ゆれる、ゆれる、ささのは、ゆれる。
漆黒のしなやかな彼の者によって。
「・・・ほう。
相変わらず間違った方向に過保護じゃのぅ、あ奴は。」
― 私の護るべき誇りを今後も護り抜けるよう精進するのみ。
加えて我が愚妹が息災であり、
また我が愚妹の下らぬ理由による昇進を望む以外の願い事が叶えば尚のこと良し。
「もっとこう、『家族団欒』とか『武運長久』とか、そういったモノは無いのかのぅ。
大体、義妹に『下らぬ理由』を持たせる羽目になったのは、あ奴自身の言動ではないか。」
・・・ひらり。
「もう一枚?
ほぅ・・・これは、一番上に飾り付けてやろうか、願い事が叶うように。」
「あら、今夜は珍しいお客様ばかり。」
「そうかのう?」
「ええ、本当に。」
「まぁ、そういう日もたまには良いんじゃないかと思うんじゃが。」
「そうですね。
・・・ところで、その様なところで何をなさっているのですか?そのお姿で。」
「・・・我がままなんじゃが切実な願いごとがあってのぅ。
仕方ない、願い事が叶うようにワシがちぃと笹飾りを登って一番上に付けて来てやろうかと。」
「まぁ。
・・・それは、きっと貴女以外の『珍しいお客様』のお願いごとでしょうか。」
「そうかもしれんの。」
「声に出せずとも、文にすれば出せるものもあるのじゃろう。」
さら、さら、さらり。
しゃら、しゃら、しゃらり。
ゆれる、ゆれる、ささのは、ゆれる。
皆の願いを抱きながら、そっと天に捧げながら。
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