『 しあわせ とは、きっと・・・・』

 

(前編)

 

 

「今日は無理をお願いしてしまって申し訳ありません。雀部副隊長。」

「いえいえ、あのようなご相談ならば私は大歓迎ですぞ!!

私も精一杯出来る限りの御指南を致しましょう。」

「本当に我が侭ばかりを申し上げてすまないと思っております。」

「いいんですよ。私も手を出さぬように致しますゆえ、頑張りましょうな?」

 

「材料は・・・一番重要なもの以外は揃えておきましたぞ。」

「本当に申し訳ない・・・。」

「貴女は謝り過ぎでしょう。何も悪い事をしていないというのに。

私もこうして洋菓子の研究や・・・初心に還って色々と出来る良い機会に恵まれたと思っているのですからな。」

「そういってもらえると有難いです。」

「ささ、貴女も“えぷろん”に着替えてくだされ。」

 

「ほほう、これは立派な!!」

「一応、家の者に伝えて・・・朽木の家の農場で掘って程よく熟成させたものを少し分けていただいたのです。」

「そうですな、掘りたてよりも少し熟成させた方が甘味も増すというもの。

よく分かっておられますな。

ではこれらを蒸かしましょうかな。」

 

「小さいものは、皮が破れないようにくりぬいてくださいな。熱いので火傷には気をつけて。」

「えっと・・・こうか?」

「そうそう、お上手お上手!!

小さいものは皮を綺麗に残して、その中に詰めますからな。

大きいものは、此方の“くっきんぐぺーぱー”の上で形を作りましょうかね。」

 

「砂糖は控えめの方が良いですか?」

「そうですね、お持ちになられた素材が飛び切り上等ですから、せっかくなので控えめにしましょうかね。」

「これに、何を足しましょうか?」

「“ばたー”を温かいうちに入れてしまいましょう。それから牛乳を少し。

ほんの少しだけ、お酒も入れてしまいましょうか?」

「え、大丈夫ですか??酔っ払ったりしませんか??」

「大丈夫ですよ?焼いているうちに程よい香りだけがのこるようになるのですぞ?」

「良かった・・・。」

 

「えっと、こんな感じで皮の中身につめれば良いですか?」

「・・・そうそう、その調子ですぞ。」

「ちょっといびつではないかと・・・。」

「初めてであることを考えれば、上出来上出来!!お上手ですぞ?」

 

「では、卵を塗りましょう。ツヤも出て、程よい焦げ目がより美味しそうに見せるのですよ?」

「この刷毛でよいのですか?」

「ええ。では塗ってくださいな。私はその間に休憩のためのお茶を用意しましょうぞ。」

 

〜休憩中〜

 

「あ、良い匂い。」

「ええ、もう少しで完成ですよ?」

「何だか・・・恥ずかしいような。」

「でも、素敵なことですぞ?・・・最初にお話を伺って、私は『嗚呼、若いというのは素敵なことだ』と思いましたからな。」

「そんな・・・・」

「しかし、何故私に今回のお話をされたのかな?とは思いましたぞ。

御家にはもっと協力してくれそうな方々がいらっしゃるはずでは?」

「だからこそ、です。」

「その心は?」

「朽木の家では、皆に知れ渡ってしまうから・・・今回も材料を分けてくださった方にも固く固く口止めをお願いしたのです。

兄様にはちょっと知られたくなかったので・・・何を仰り出すか分からないから。」

「・・・確かに、知れてしまってはなりませぬからね。」

「態度に出されては、困りますから・・・。」

 

「うわぁ!!」

「ほぅら、美味しそうに出来上がりましたな。」

「本当に美味しそう!!」

「では、少し冷ましましょうか。それから『らっぴんぐ』をしましょう。」

「・・・味見、したいです・・・。」

「冷めるまで、我慢ですぞ?」

「ううむ・・・。」

 

「程よく冷めてきました。味見も解禁ですよ?」

「本当ですか??」

「食してみましょうかね。」

 

「本当だ・・・お酒の香りは微かで、酔っ払うような感じはないな。

それに、その微かな香りが良い感じだ。」

「でしょう?」

「・・・これなら、喜んでもらえるだろうか。」

「ええ、きっとお喜びになられますぞ?」

「・・・もう私のことを料理下手だなんて言わせまい!!」

「そうそう、其の意気です!!」

 

「綺麗に“らっぴんぐ”も出来ましたね」

「・・・本当に今日は有難う御座いました!!」

「いえいえ、私もとっても楽しませていただきましたぞ。」

「では、此れで・・・。」

「何卒、転ばぬように気をつけて!」

「はい!!」

 

 

 

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