『2貫徹の代価はその不細工な笑顔で十分だ』

 

 

「・・・お、希代、どうしたんだそんなところに突っ立って。」
「あ、お兄様!!おかえりなさい!!」
「・・・ああ、雛飾りか。」
「はい。今日の午後くらいから飾り始めたんです。」

希代の目の前には、姉上のために両親が用意した雛飾りが今年も飾られていた。

「しかし見事な雛飾りだな・・・さすが姉上のものだ。
此れほどまでに贅を尽くした飾りは二つとないだろうな!!」


「いいなぁ・・・。」
「なんだ、希代。お前雛飾りが欲しいのか?」
「ううん、そうじゃないのお兄様。
・・・だって、雛飾りは御家に1つあれば良いのでしょう?
私はお父様とお母様に別の素敵なお人形を代わりに作ってもらったし。
でも本当にキラキラしていて綺麗だなぁって!!」


あの希代の様子じゃ、雛飾りが羨ましいんだよな・・・。
ウチは広いから、別に希代の分の飾りがあろうと場所なんて関係ないけどよ、
やっぱり二つも三つもいらねぇよな。姉上の分で十分だ。

でも、アイツ・・・羨ましそうだったよな・・・。

あ、そうだ・・・良いことを思いついたぜ。さっすがオレ様!!
オレだってあの不細工な妹だろうと、面倒見るときは見るんだぜ!!



「おい、希代。」
「あ!!お兄様!!・・・あれ?そのお顔どうされたの?」
「不細工のクセに俺の顔の細かい事は気にすんな。
其れより、手ェ出してみな。」
「?」

希代の小さな手のひらの中に置いたのは、
桃の花の枝を沢山浮き彫りにした、小さな楕円形の小物入れ。

「お兄様、此れは・・・・」
「開けてみな。」
「う、うん。」

その小物入れを開けたときの希代の顔。
この上無く不細工で目も当てられないおうな顔だけどよ。
でもやっぱり喜んでいるのを見るのは悪いもんじゃねェな。

「・・・お雛様・・・」


姉上のような立派な雛飾りは、希代には勿体無いモンだ。
けど・・・羨ましがってシュンとしているツラは、タダでさえ不細工な希代の顔を更に不細工にするだけだ。
このお兄様が、お前がこれ以上不細工になるのを食い止めてやろうじゃないか。

オレは自分で装飾品を作るのを趣味とするくらい、貴金属の細工は得意だと言える。
ならば、このオレの才能を余すところ無く発揮して、この愚妹の願い事を叶えてやろうじゃないか。

・・・そう思った。

雛飾りを納める小さな小物入れ(と、桃の花の彫金)は、意外とあっさりと出来た。
日頃から手馴れている作業に近いものがあったからだろうな。
問題は中身だ。
小さな小物入れに納める程度のものだ。
姉上の雛飾りのように、何段も仕舞えるものではない。
此処は希代には悪いが、一番上のお内裏様とお雛様だけで我慢してもらおう。
・・・ま、お前は不細工だ、文句言うな。

姉上の雛飾りを思い出しながら、アレヤコレヤと彫金する。
衣装は意外とうまくいった。
お雛様の着物の重ねとかは、様々な金の色で表現してみた。
(現世では「ホワイトゴールド」や「ピンクゴールド」といった名前で呼ばれている「合金」というものらしいが。)
ぼんぼりには姉上のモノには遠く及ばないが、一応、宝石を埋めてみた。
お前は不細工だが、此れでも誉れ高き大前田家の一員だからな。

お内裏様の顔はうまくいった。
問題はお雛様の顔だ。
本来であればオレたちの誇るべき、美しい姉上のご尊顔を模写したいところだ。
だが・・・悔しいが俺には姉上の美しいお顔を模写するだけの技量は無かった。
仕方が無い。
希代、不細工なお前の顔に似せて作ったぞ。


「お兄様・・・もしかして、目の下のクマは・・・。」
「お前は下らないことを気にすんな。
オレの目の下にクマがあっても、お前の不細工振りには遠く及ばねぇ。」
「・・・お兄様・・・・」

「何だ希代、嬉しくねえのかよ。」
「ううん、凄く嬉しい!!ありがとうお兄様!!!」

希代が、不細工な顔を更に不細工にゆがめて笑って俺を見上げる。
・・・仕方ねえな、今日はそのツラをオレに見せても許してやろうじゃねえか。

「希代、ちゃんと桃の節句が終わったら、その雛人形も仕舞っとけ。」
「え?」
「お前はタダでさえ不細工だ。
現世では、雛人形を何時までも片付けないと嫁に行き遅れるという言い伝えがあるんだとよ。
お前みたいな不細工が嫁に行き遅れたら、流石の父上や母上も泣くぞ。」
「折角お兄様が作ってくださったのに・・・。」
「ま、それまではお前の部屋の机の上にでも飾っておけ。」
「はい!!」

「お兄様、本当にありがとう!!すごく嬉しい!!」
「フン・・・・」
「でも、どうか少しやすんでくださいね?」


・・・2貫徹したくらいで、オレの美男子ぶりが失われるわけじゃねえ。
余計な事は気にすんな、希代。

 

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