『林檎うさぎと御礼参り』


「・・・おや?」


「・・・疲れちゃった。剣ちゃんもどこかに行っちゃったし・・・。」

「お前さん、もう日も暮れたというのに、何をしてるんだい?」
「・・・つかれちゃったから、休んでるの。剣ちゃんと離れちゃったし。」
「剣ちゃん・・・?お友達かい?」
「うん!!でももっと大事なの。」

「お前さんは、死神さんだね?黒い衣装に刀を挿してるからね。」
「そうだよ。」
「此処から瀞霊廷の門まで遠くも無いけれど、さすがにお前さんを一人で行かせるのは危ないねぇ。
誰か他の死神さんと連絡は取れないのかね?」
「取れたら迷子になってないよ?でも連絡取れても迷子になってるかもね。」

「仕方ない、お前さん、今日はうちに泊まってお行き。狭くて何も無いけれど、暖ぐらいは取れるよ。」
「いいの?」
「ああ、かまわないよ。夕餉もまだじゃろ?食べて休んでいきなされ。」

「お前さん、名前はなんていうのかね?」
「やちる。剣ちゃんがつけてくれたの。」
「剣ちゃん、というのは、お前さんの親御さんみたいなものなのかい?」
「剣ちゃんはやちるにとってもっと大事なの。」
「ハハハ、そうかいそうかい。
お前さんを見ていると、本当にその剣ちゃんはお前さんを可愛がってくれているんだねぇ。」
「うん!!」
「だとすると、お前さんが迷子になっていて心配し取るんじゃないかのう・・・。」
「大丈夫!!迷子になるのはいつものことだから。剣ちゃんも私も。」
「まぁ、お前さんが一人前の死神さんなところを見れば、心配は無用なのかもしれんがのう。
・・・私の孫も死神でね・・・お前さんよりもちょいと年上くらいかね。
あの塀の向こうで、一生懸命に頑張っていると聞いてるよ。」
「へぇ!!そうなんだ〜。」
「だからお前さんを見ておると、孫のことも思い出すし・・・お前さんの仲間が、孫よりも小さいのに死神をやってるお前さんのことを
心配しておるんじゃないかと思えてね。」
「えへへ。でも大丈夫。みんな私が強いって分かってるから♪」
「・・・さ、たんとお食べ。あまり良いものは食べさせてはやれないけれど。」

「そうじゃ、昨日・・・いいものを貰ったんじゃ。」
「?」
「ほれ。これじゃ。」
「・・・りんご?」
「あまり色づきは良くないといっていたが、この辺りでは十分に立派な林檎じゃよ。
お前さんの手に乗るくらい小さいねぇ・・・。」
「本当だ、ちっちゃい。でもかわいい!!」

「ねえ、おばあちゃん、コレ食べてもいいの?」
「ああ、勿論じゃ・・・。
おお、そうじゃ、ちょっと待てるかの?」
「ん?どうしたの??」

「お前さん、こんなのは好きかい?」
「・・・包丁?」
「まぁ、見ててごらん。」

さくさくさく・・・・

「ほうら。」
「・・・うわぁ、うさぎさん!!」

「おや、喜んでくれたかい?」
「すご〜い!!」
「久々に作ったんじゃが、喜んでもらえてよかったねぇ。」
「おばあちゃんすごい!!鬼道みたい!!」
「おや、死神さんたちの使う力には及びなどはしないよ。」
「ううん、こんなに可愛いの初めて見た!!みんなこんなこと出来ないよ??」
「さ、色が変わらないうちにお食べ。甘い林檎だと言っていたよ。」
「おばあちゃん、もっとうさぎ!!うさぎがいい!!」
「おやおや、本当に気に入ったのかね・・・じゃあ、もっと作ってあげるからね。」
「わーい!!」


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