「瑠璃色の生き様に」

 

「一角、そろそろ休んだらどう?」
「まだだ、まだ足りねェんだ弓親」

強くなりてェ、
こんなんじゃ足りねェ、
もっともっともっと強くなりてェ、

「・・・もう三時間は休み無しで鍛錬してるんだし。いくら一角でも倒れるよ。
大体、今日は寝起きから二時間も隊士の稽古に付き合って、鍛錬のためにここに来るまでに虚三体倒して、それから今まで」

強くなりゃァもっと戦えるんだ、
もっと戦いを楽しめるんだ、
自分の流儀を貫いたとしても・・・あんな無様な負けを見せずに済むんだ、

「自分の事ァ自分が一番よく分かって・・・」

これからも戦いを楽しむには強くなるしかねェ、
自分の流儀を通すには強くなるしかねェ、
もっともっともっと強くなるしかねェ

強くなるにはどうすりゃ・・・・

「・・・一角!?」



・・・此処は何処だ?

−ったくよォ、馬鹿かテメェは。

・・・この声は・・・・

−戦いを楽しんでぶっ倒れるならともかく、こんな場所で地べたに伏してンのか。
相変わらず変わンねェな、一角。

・・・更木・・・隊長・・・?

−俺が昔テメェに言ったこと、忘れたか?

・・・俺に言ったこと・・・・

−無駄に死に急ぐな。運よく命が繋がったなら生きることを考えろ。
 まァ、こんな話をしたか。
 俺もあまり昔のことなんざ覚えちゃいねェが。

・・・隊長、俺は無駄に死に急ぐためにこんなことしてんじゃないんです。
俺は戦いを楽しむために、強くなるために・・・!!

−馬鹿か。
 戦いを楽しむために強くなるどころか、テメェの限界を見誤って死ぬ一歩手前まで行ってんじゃねェか。
 それで死んじまったら、ソレこそ無駄死にだ。元も子もねェよ。

・・・隊長・・・・

−ちったぁ考えろ。自分の死に様を選びたいンだったらな。
 その辺の地べた這いつくばっていやがる造作もねえ雑草だってな、花咲かせて散るという己の生き様を貫くために必死こいていても、

 無駄に散り急ぐような真似はしてねぇよ。
 ・・・闇雲にあがいて結果的に命を粗末にするような無様な真似はすんな。
 まァ、テメェが無駄死にしたいんなら、俺はソレを止めるつもりは無ェが。


「・・・冷てぇ・・・。」
「このまま目が覚めなかったらどうしようかと思ったよ。流石の僕も肝がちょっとだけ冷えた。」
「その割には、顔に容赦なく水をかけやがって・・・・」
「一番手っ取り早い方法じゃないか。」

「弓親、」
「なんだい?」
「気ィ失ってるとき、夢見たんだ・・・・」
「夢?」
「隊長が、」

ふと、目に入ったのは・・・小さな花。
地面を這うように、けれども力強く花を咲かせていた。

−その辺の造作もねえ地べた這いつくばっていやがる雑草だってな・・・・

「一角、どうしたんだい?」

迷いなど一切ない、澄み切った空のような瑠璃色を精一杯に広げていた。

自分の与えられた生の中で、自分の有り体のまま生きてやがる。
行き急ぐでも、死に急ぐでもない。

まるで己の生き様に何の迷いも無い、と言わんばかりだ。
ある意味、清々しいくらいだ。

「ハッ・・・テメェのほうが、隊長の言わんとしていることを分かってるってのか。」

それに比べて、俺はどうだ?
強くなるために闇雲に突っ走って。

己を見失ったまま戦ったって、ソレは単に死に急いでいるに他ならねェ。
己を見失ったまま強さを求めても、同じなんだろうよ。

そうだ、あの時と変わらねぇ・・・無駄死にを望むような真似をしてるも同然だ。

そんでもって、あのまま、ぶっ倒れたまま本当に目を覚まさなかったら・・・・
戦いの中で死ねない、なんて絶対に御免だ。

「・・・一角・・・?頭でも打ったのかい?あれは只の瑠璃唐草じゃないか。
現世では何だか美しくない名前をつけられてしまったという・・・。」
「いや、大丈夫だ。どこも打ってねェよ。」

ゆっくりと身を起こし、本当に心配そうな表情を浮かべ始めた弓親の手から水筒をうばいとる。
さっきは俺の顔の上を流れていった水が、今度は俺の五臓六腑に染み渡る。

「俺も生きてるぜ、ちゃんと。」

勢いよく水筒を傾けたためか、水があちこちに飛び散る。
その水が、瑠璃唐草の花の上に零れ落ちる。

より一層、花の青が澄んで見えた。
混じりけの無い、よどみの無い、迷いのない青。


「どうやら、俺はまだまだアノ頃と変わっちゃいなかったってことだ。
まだまだ青いな・・・青は青でも、しょうもねェガキの粋がる青さだ。コイツらとは違う。」
「?」
「今日は終いだ。帰るぞ・・・・」

「まったく、一角は。
・・・ま、今まで見え隠れしていた憑き物が落ちたみたいだから、良かったけれどね。」



 

「おおいぬのふぐり」の花言葉は「信頼」。
敢えて愛らしい花姿や「信頼」という言葉から遠いような、ミスマッチな組み合わせは無いだろうかと思って・・・想像したのが十一番隊あたり。
ミスマッチ狙いで十一番隊でイメージしてみて、ふと、「一角さんならもしかしたら書けるかも?」と・・・。
此の方は剣ちゃんに信頼を寄せていますし、長年行動を共にした弓親さんと今も一緒。
他隊に移った恋次氏からも慕われていますよね。

でも、本文中には「信頼」の文字は出てきません。何か薄っぺらい響きに感じたので。
それどころか、どんどん花言葉は希薄化して、掛け離れた関係のない方向に行ってしまいました。

どうしてこうなった???


 

 

 

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