※こちらは、「秋桜」の原典版です。
かなり兄様のキャラが壊れているようにも感じられます(でも改訂版よりも兄様の心理面は分かりやすいのかも?)
前半は、改訂版と同じなので省略しました。ちなみに改定版はこちら。
(お姉さんの名を叫び、立ち上がり、「呼んでみたかった・・・」と思うシーンの後から原典版と改訂版は変わります。)
ふと風が止み、私を抱きしめてくれたしなやかな緑の腕は惜しむように私から離れ。
私が体の平衡を失ってよろけてしまった、と同時に、
一陣の「春風」が、背中から私の体を支えてくれた。
・・・急な春の風に驚き、振り向きざまに見上げれば、そこには春の桜を司る人。
「・・・兄様・・・」
「秋の風は身に染む。体が冷えておる。帰るぞ。」
兄様は私を軽々と抱きかかえ、ゆっくりと花の海を掻き分けていく。
その腕の中から世界を見渡せば、遥か向こうまで広がる秋桜の海。
清廉な白、強き信念を秘めた真紅・・・そして対なる二つを繋ぎ続ける桜色。
一つ一つは優しく、けれども気高く。
全てを見渡せば、まさに世界と「調和」して、天と地とを繋ぐよう。
・・・思えば、天と地ほどの差もあるだろう兄様と私を繋いでくれたのも、
他でもない、姉様だったのだ。
私は目の前に飛び込んできた一輪の花を手に取ったものの、すぐに離した。
兄様が、足を止められた。
「どうした?」
「いえ、何でもありませぬ。」
「その花を気に入ったのであれば、手折り屋敷に持ち帰るがよい。
儚げな野の花も、愛でるには良かろう。」
私は、首を横に振る。
怪訝そうに私を見つめる兄様に、私は・・・
「この花は、ここで咲いているからこそ。
兄様も、咲き誇る春の桜を手折るような真似は、しないでしょう?
この秋の桜も、おなじです。」
「・・・・」
「ここで優しさと強さを抱いて咲いている姿こそ、秋の桜の、真の姿なのですから。」
「・・・秋の桜から託されたのだな、私は。」
今度は私が見上げて不思議がる番だった。
けれど兄様は何も言わずに、再びゆっくりと歩を進められた。
秋風から私を護るように、私を羽織で包み、抱き上げたままで。
―季節の移ろいに、見失いもするまい。
時の流れに、迷いもするまい。
・・・永久に咲き誇る千本の桜の誇りにかけて、枯らすまい・・・もう一輪与えられた野の花を。―
(おまけ)
「で・・・兄様、私、歩けます!!」
「たわ言を。あの秋桜に足を取られて転んでいたのではないか?
常々お前は危なっかしいのだ。」
「それは・・・!!」
「立ち上がろうにも、お前は足をひねっていたから秋桜を杖にでもして立ち上がろうともがいていたのではないのか?」
「・・・違います!!」
「ならばなぜ再びよろけたのだ。私がいなければあのままお前は後ろにひっくり返っておったやもしれぬ。」
「・・・・」
「・・・大事無いなら、それで良い・・・」
「・・・え?」
(やはり兄様は兄様・・・なんだ。)
もともとは儚い姿を秋桜に例えて緋真さんを描こうとしたのですが、
緋真さん、実はとっても強い女性だったのではないかと彼女自身のイメージが変わってきました。
それと比べると、兄様は・・・本当は弱い人間で、自分でもそれに気付いていたのではないか、と。
緋真さんを失ったあとになおさらそれを突きつけられて。
周囲にはそんな自分を悟られまいと・・・ああなってしまったのかな、とも。
けれど、ルキアにはなんら関係ないこと、なんですよね。
秋桜は、ルキアにとっては姉そのものに仮託した存在であり、兄様にとっては・・・姉妹の両方を仮託した存在、だなと。
二人とも「野の花」で、愛でるつもりで(手折ったかどうかはともかく)傍に寄せた姉は数年で手の届かぬ場所へ。
けれども自分を愛でてくれた存在のために、もう一輪の花を託して・・・
「せめて哀しみが和らぐように、希望になるように・・・だから、決して枯らさないで」と。
・・・枯らすのが怖くて、姉と同じように傍に寄せることも出来ずに遠ざけてみたりもしたわけですが。
当の「託された花」は、望まれたにもかかわらず愛でられることなく、かといって野に戻ることも出来ず・・・。
・・・一番とばっちりを食らってしまっているルキア、色々と頑張れ。
お兄さんはある意味「弱い自分」を認めてから、ほんとに強い人になっちゃってるから。
・・・度が過ぎるくらいに。
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