『Le caprice des grenades~柘榴綺想曲~』
5.沢山の柘榴が物語るもの-来年も、また・・・-
「まあ、清家様、こんなに柘榴がたくさん・・・」
「こんなに籠一杯に、いったいどうされたのですか?」
「うむ、白哉様がルキア様と裏庭に行かれる前、ご自分で裏庭でお取りになられのだ。
今年は例年より沢山実ったようでな。」
「ご当主様が?」
「まさか、ご自分で????」
「柘榴を竿で採る練習、をされていたらしいのだが・・・」
「そんな、我々に命じて下さればそんなお手をかけることなく・・・
しかも竿でなどとは一体・・・」
「どうやら、ルキア様のために練習をされたらしいのだ。」
「・・・え?」
「昔、ルキア様が竿で柘榴を採られたとの話をお耳にされたらしいのだ。
ならば、と、裏庭に柘榴の木があることを思い出されて、このように・・・。」
「・・・まあなんと・・・」
「なんどもご自分で竿を削っては、ああでもない、こうでもない・・・と。
私もさすがに白哉様に『そのようなことをなさらずとも、我々が収穫いたします』と申し上げたのだが・・・」
「それで、ご当主様は何と?」
「一言、『構うな』・・・と。」
「どうしてまたご自分でなどと・・・ルキア様もさぞや驚かれたでしょうね?」
「そのようだ。しかも、その場で柘榴を口にされたらしい。」
「・・・あの白哉様が、ですか?」
「甘い物をお召しには滅多になられないはずでは・・・」
「ルキア様はこのお屋敷に入られてから、ありとあらゆるものを制限され、
また自らも朽木の名に恥じぬよう、と律してこられたのだ。
その結果として、本来お持ちであったであろうルキア様の活発さや明るさといったものも封じられてきたのかもしれぬのぅ。
白哉様も、それにお気づきではあっただろう・・・しかし、どうにかするには、
当時としては既に手遅れ、という状態だったのかもしれぬ。
しかし、ようやく、お二人がお互いのことをよく見てみようと・・・
あのルキア様の危機の時をきっかけにして思い至ったのかもしれぬ。
この柘榴は、ルキア様の視点に立ってみようとされた、そんな白哉様なりのお気持ちの表れ・・・かもしれぬな。」
「ですが、今までも白哉様はルキア様のことに関しては大層な・・・」
「そうですよ、お食事一つをとってみても、白哉様はルキア様のために、」
「それは、ご自分で何かルキア様にされたわけでもなければ、直接ルキア様に伝わるような
類のものではあるまい。
・・・本当に理解したい、理解されたい、と思うときには、やはりご自分で動かれることも必要なのやもしれぬのう・・・。」
「仮に、それがあの・・・失礼ながら、滑稽な姿であったとしても。」
「いざとなれば、道化の真似さえも、今のあの方はいとわぬだろうな。」
「しかし、実が幾分若いのも混じっている。練習のためにわざと若い実を採られたのだろう。」
「練習、ですか?」
「いくら白哉様とはいえ、あの長い竿を練習も無く器用に用いて柘榴を採るといったことは
出来なかったであろうな。
まして、ルキア様の前で、あの白哉様が失敗した姿などを見せられるわけが無かろう?」
「そうですよね・・・」
「下手をしたら、竿の重さや長さで平衡を失ってしまわれる可能性もございますよね。
確かに、ルキア様にそのようなお姿をお見せすることなどは・・・。」
「しかし、この籠一杯の柘榴の山、いかにするべきか・・・
実は若すぎるものもあって生で食するには向かないが、
かといって、いくら練習のために採られたものとはいえ、白哉様が手づからお採りになったもの、
粗末にすることなどもっての外、なのだが・・・。」
「でしたら清家様、いい方法がございます!!」
「なんと?」
「本来は熟した実を使うのが良いのでしょうが、それでも多分、大丈夫かと思われます。
ルキア様も柘榴がお好きなのでしたら、このようなものはいかがでしょうか?
あと、これもお作りすることができるかもしれません。」
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「清家、今年はやけに食前酒に赤い酒が多いのではないか?」
「ええ、白哉様がご自分で竿をお使いになって収穫された時の柘榴の果実酒でございます。
大収穫でございましたが、若干練習も兼ねて収穫されたのか・・・若い実もございましたので、
生ではなくこのような形でお召し上がりいただければ、と。」
「・・・清家、お前は一体何を考えて」
「え、このお酒は兄様があのとき収穫された柘榴で作られたのですか!!」
「・・・ルキア?」
「とても美味しいです、兄様!!・・・
卯ノ花隊長が、柘榴には体に良い薬効があるとおっしゃっておりました。
きっとこのお酒も体に良い効果がありますね!!」
「・・・・」
「このような形で柘榴を頂くのは初めてですし、兄様のお採りになられた柘榴を長く楽しめるなんて!!」
「ええ、ルキア様が柘榴をお好きでいらっしゃると伺ったものですから。」
「しかも、兄様は練習までされて・・・その上であのような大きな柘榴をいただけていたなんて。
・・・兄様、有難うございます。」
―お前が喜ぶのであれば、まあ、これも良しとしよう・・・
きっとこれも、柘榴採りの『対価』なのやもしれぬ・・・
・・・あまり知られたくは無かったのだがな・・・私の「更に」情けない姿までは。―
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「恋次、お前にいい物をやろう。」
「・・・今度はなんだよ。」
「これはだな、『ぐれなでんしろっぷ』と言うものだ。」
「ぐれなでん・・・何だソリャ。」
「柘榴の糖蜜、とでも言うべきものらしいぞ。」
「柘榴????
・・・ルキア、悪いことは言わない、もう柘榴は勘弁してくれ。」
「何を言うか恋次、これは兄様が手づから収穫された柘榴をふんだんに使って
朽木の料理人が丹精込めて仕上げた最高級品の糖蜜だぞ???」
「・・・なおさら勘弁してくれよ・・・。
(朽木印のソレ、俺に対する毒とか入ってんじゃねーか?)」
「なんだ恋次、せっかくお前の好きな甘いものだというのに。
・・・兄様が「恋次に持っていってやれ」とおっしゃって下さったというのに。」
「・・・その色さ、かなりドぎつくねェか?
いよいよ、血みたいだぜ?それか毒でも入ってんじゃねーのか?」
「馬鹿なことを言うな、恋次!!・・・なんならここで私が毒見でもしてやろうか?」
「分かった分かった・・・おめーが毒見しかねないものに隊長も毒なんて入れやしねーって。」
「・・・けどよ、これ、何に使うんだ?糖蜜だろ?」
「そうだな、綺麗な色だから・・・カキ氷、などはどうだ?」
「オメーな、今、秋だぜ?これから木枯らし吹いて寒くなるって時期だぜ?」
「・・・じゃあ、来年まで待つか。
来年まで待って、そのときには一護たちも呼んで、カキ氷でも作って・・・。
皆で誰が一番口が赤いか比べて・・・子供のようにはしゃいで。
だが・・・それまで、私も恋次も一護たちも、皆息災でいられるだろうか。」
「何しみったれたこと言ってんだよ。
来年も再来年も、それから先も、俺達はカキ氷を沢山食うんだよ。
(朽木印の柘榴なんて、全部食い尽くしてやる!!)」
「そうだな、これから先もきっと・・・」
-兄様の採られる柘榴を食することが出来る、とよいな。
-・・・はいはい、ようございましたね全く。俺の苦労も知らないでコイツは・・・・。
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