『Le caprice des grenades~柘榴綺想曲~』
4.それぞれの柘榴、夕焼けに思うこと(後編)
「きれいな夕焼けですね。」
「そうですね、隊長・・・・」
「あら、どうしたの勇音」
「いえ、今日の柘榴のことで・・・それほどまでに怒るものなのかな、って。
書類を届けにきたときのしょげた阿散井副隊長の話だと、柘榴を見たときの朽木隊長、
結構静かに、けれども面白くない、と言った感じだったようですしね。
昔の話をしだしたら、尚更空気が凍り付いていくようだったと言っていましたし。
あ、でも、朽木隊長くらいならば、きっとお屋敷の方が朽木隊長の一声で沢山用意してくださったり・・・
それはそれで、今ごろ朽木さん、びっくりしてるんじゃないでしょうか?」
「それでは意味がないのですよ・・・。
勇音、あなたは知っているかしら?
ルキアさんは、療養中の朽木隊長のために、白がゆを作られたことがあるんですよ?」
「ええ、話には聞いています。」
「あのときは、ルキアさんが自分から一生懸命に動いて朽木隊長と距離を縮めようとしていましたが・・・
たまには、朽木隊長から歩み寄ることがあっても、よいと思うのですよ。
ルキアさんばかりが一生懸命に朽木隊長に合わせようと背伸びをしたところで、辛いだけ。疲れてしまいますよ?
たまには目線の高い側が、合わせてあげないと。
・・・今までも、あの方はご自分の手で、何かをしたわけではないでしょう?
仮に多くの物を与えたとしても、結局はご自分の手で何かをされたわけではなく。」
「まあ、そうかもしれませんけれど。」
「本当に得たいものがあるのならば、最終的には自分自身が動かなくてはなりません。
そして、それゆえに、得られるものの価値も身に染みて分かるものなのですよ。
・・・他人からもらうばかりでは、その価値なんて分かりませんよ?
・・・既に他人に用意させたものをただ与えるばかりでも、同じこと。
たとえば、浮竹隊長から頂いた柘榴は先程頂いてみて・・・確かにおいしいのです。
が、おそらくルキアさんがそれを持ち帰ったところで、朽木隊長はきっと見向きもしないでしょうし、
薦められても「要らぬ」とおっしゃるのが目に見えています。
・・・けれど、ご自分で採られたものならどうでしょう?しかも『誰か』のために。」
「そうですねえ・・・たしかに、普通に頂くのとは違うかもしれませんよね?」
「阿散井副隊長の昔話を聞いて、本当はいても立ってもいられなかったかもしれませんね。
色々と、阿散井副隊長の昔話を聞かされたみたいですから、
色々考えられた末、ご自分で柘榴採りをやってみようと思い立っても、不思議ではありませんよ、
・・・今の朽木隊長なら。
今まで、お二人とも思い出らしい思い出など無かったでしょうし、兄妹らしいところもなかったのですから。
・・・一方で、ご自分が知りえない姿が存在することなど、あの方は許せない性格でしょうから。」
「でもさすがに・・・あの朽木隊長が、それはないでしょう?
だって、あの隊長が柘榴などご自分で???」
「それは勇音が昔の朽木隊長を知らないからそう思うのですよ?ふふふふ。」
「え・・・なんですかそれ・・・?」
「昔の朽木隊長は、それはもう・・・・
ですが、基本的に今も、それほどお変わりはないと思うのですよ。」
「・・・きっと今頃、松本さんたちも柘榴、美味しく頂いているかしら?」
「そういえば本当にちょうど良く、乱菊さんたちがいらっしゃいましたよね?
・・・まさか隊長、乱菊さんたちに柘榴の話をするために呼んだとか・・・」
「あら?何が言いたいのかしら勇音。」
「いえ、何でもありません・・・。」
「本当に、『ちょうど良く』お会いしましたものね。」
「(そこの地獄蝶、思いっきり使いましたよね、隊長・・・女性死神協会の権力をまさか・・・)」
「結構いけるじゃない、浮竹隊長の実家の柘榴!!」
「なんか、もらっちゃって申し訳ないよう気も・・・」
「まあ良いじゃない七緒、きっと今頃、朽木隊長がどうにかしてるわよ。
・・・私達が朽木からもらった柘榴を見て、恋次がさらに私達にまで八つ当たりされたみたいに
ぐったりげんなりしていたくらいだもの。
あの恋次があんなにしょげるくらいなんだから、朽木に対しても結構ド派手なことしそうじゃない?」
「でも、きっと使用人の方が沢山用意してるんでしょうね。
きっと量を取り寄せて驚かせたり・・・」
「そうかなぁ、
今のあの隊長なら、卯ノ花隊長が予想するみたいに、意外と恋次に張り合って自分で採りそうじゃない?
あの家なら、敷地内に柘榴の1本や2本くらい、ありそうだし。
かっこいいところを見せたい!!とか思っていそうじゃない??」
「まあ、柘榴採りがかっこいいかどうかはともかくとして・・・
そうそう、そういえば、あと1個残っていましたよね?柘榴。
・・・しまった!!って思ったのですが。
頂いた柘榴で全てかと思っていたら、1個残っていたなんて。」
「大丈夫よ、きっと。
そんなの、きっと十一番隊の嗅覚の鋭い副隊長なら、隠してても見つけ出して是が非でも
朽木から持っていくわよ。」
「・・・そうでしょうか?」
「そういうところでこそ活躍してもらわないと。」
「・・・さて、そのもう一個の柘榴、雛森にあげてこよっか。
ちゃんと朽木の気持ちも、伝えてあげないと。
その柘榴は、雛森のために、朽木が心から心配して・・・くれたものだしね。」
「そうですね!!・・・」
「甘くておいしいよ?ざくろ。剣ちゃんも食べる?」
「・・・オメーはそんなのが好きなのか?」
「だって、きれいで、甘くて、おいしいんだもん。」
「ヘッ、俺には分かんねーな。甘ったるい臭いだぜ」
「るっきーから、甘いにおいしたんだもん。
・・・こんなに美味しいおやつ、あたしが見逃すわけ、ないじゃん♪
やっぱりゆみちーにはひみつにしよっと。」
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