今日を祝いの日にと私は思っていたので、明日に回したことにより
急にその場には妙な空気が流れ始めた。
さすがの私も、此の侭此処にはいづらい。此処に居続ける理由がないのだ。
ルキアを休ませたいとも思いつつ、他方、少し調子が戻ってきたのであれば・・・
ルキアと共に今日もまた、ゆるりと過ごしたいと願ってしまう。
何故ならば、今日も『中間の日』の片割れ、今日も特別な日なのだから。
さて如何すべきか・・・と考えていたとき、何処からともなく腹の虫の鳴き声が。
「・・・、申し訳ありません!!」
腹の虫も泣き出すくらいには、この娘も回復はしているのだろう。
「構わぬ、それはお前が気をつけたところで鳴くのを止めるものではない。
そういえば、私も食事を摂っていなかった。
私の腹の虫が鳴き出す前に、食事でも摂るとしよう。」
「わぁ・・・」
私は清家に命じて、ルキアの体を気遣い、卵おじやを作らせた。
恐らくこの娘は白がゆよりも、味の付いている卵おじやのほうが食べやすいのでは、と考えてのこと。
だが、ルキアが嬉しそうな声を発したのは、卵おじやを見てのことではなく、
それに副えられた椀の中身を見てのことだった。
「・・・白玉ぜんざい・・・」
やはりこの娘は卵おじやよりもぜんざいに目が行くようだ。
だが、それでも良い。
とにかく、食事を取ることが出来ねば、体の回復もそれだけ遅くなる。
「どうやら主食よりも、お前は甘いものに目が行くようだな。」
「・・・あ、す、すみませぬ・・・」
「そちらを食したいのならば、それでよい。とにかく食物を摂れ。」
そう言いながら、私はルキアにぜんざいを食するよう促す。
・・・私の顔色を伺う必要などない。
私が気にして居らぬことを伝えるため、何食わぬ顔で私は箸を手にした。
もっとも、私が食事を始めることが出来たのは、ぜんざいを口にして顔を少しほころばせたルキアを
目の端で捉え見てから、ではあったのだが。
ふとルキアを見れば、頬にぜんざいの粒餡が付いたままであった。
「ルキア、お前の頬に・・・」
「え?」
「粒餡が、ついておる」
「こ、これは大変お見苦しいところを・・・」
慌てふためいて必死に餡をぬぐおうとするが、如何せん口元ではなく頬についているため、
ルキアは狙いが定まらずに見当違いの場所を懐紙で拭っていた。
「ルキア、」
私に呼ばれてびくっとした後、固まったままのルキア・・・
そのルキアの頬に、そっと指を伸ばす。
粒餡を、つまむ。
そしてそれを、私の口に運ぶ。
「に、兄様!?・・・」
やっと、固まっていたルキアが動き出した。しかも大層慌てて。
私はそのような慌てるルキアをよそに、何食わぬ顔で。
「別に落ちていたものを拾って食べたわけではない。
お前が幼子のように頬に小豆などつけているからだ。」
「・・・・」
「甘みは好かぬが・・・たまには良い。」
耳元まで真っ赤になって押し黙るこの娘の幼さも、またいとおしい。
以前はそのような表情を、見せる事は無かった。
・・・私になど、見せてくれることが、無かったのだから。
食事も終わり、私にはお茶を、ルキアには体を温めるために生姜湯を出すように指示した。
それを飲んだ後、私は湯殿へと向かった。
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