「・・・、」
湯殿から部屋に戻る途中で、ルキアの部屋の明かりが消えていることに気付いた。
―もう、床について体を休めて居るのか・・・?
部屋から出てきた侍女に問えば、ルキアは私が湯殿に向かった後・・・
「私も頂いた夕食で少し調子が良くなったように感じますし、
また生姜湯の効能だけでなくしっかりと体を温めて体を休めたいので、
お風呂に入りたいのですが・・・」
念のため侍女が侍医に相談に向かったところ、問題ないとのこと故、
他の侍女らに支えられながら湯殿へ向かったのだという。
確かにこの季節柄、湯殿にて体を芯まで温めるのも、また有効かも知れぬ。
のぼせるような事があっては勿論困るのだが、恐らく侍女らが其の辺りの事はわきまえていよう。
・・・私はどうやら行き違ったようである。
ふと、私の内にある考えが浮かび、他の侍女も呼びつけて・・・ある指示をした。
ルキアが私を見た時の顔は、早々見られるものではないほどの驚きようであった。
先程粒餡を頬から取ったときのものなど、まだこの時の驚きようの比ではない。
・・・とはいえ、驚くのも、無理は無い。
部屋に寝具が二組。しかも一寸ほどの間すら無く並び敷かれていたのだから。
・・・何事か、と思うだろう。
かくいう私も、流石にここまで近くに寝具を敷かれるとは思ってもいなかった。
だが、それをずらして離す気にもならなかった。
・・・先に自分の寝具に体を横たえて、私は、
呆然としながら部屋の入り口に突っ立ったままのルキアを見上げていた。
「・・・此処はお前の部屋ゆえ、遠慮は要らぬ、入れ。」
「に、兄様・・・これは・・・・」
「私の寝具をここに運ばせただけだが。」
「え、で、ですが・・・」
「お前はそこで、私をいつまで見下ろしているつもりか。」
私としては、単に、この娘の傍で今日は休みたい、そう思っただけのこと。
・・・それ以外に、別に、他意はない。
とはいえ、この娘の驚きようは・・・
「ですが兄様、さすがに・・・」
「単に私は、お前と色々な話をしたい、そして・・・・私も聞きたいのだ。
私の知らぬお前の見てきた世界や、多くの物を。」
「それは明日にでもお話を致します、ですから・・・」
「・・・お前は、明日まで私が待てると思うか?
犬に『待て』と命じるような真似を、お前は私にするのか?」
・・・目の前の娘は、押し黙ってしまった。
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