匂紫
 
 
 
『 献身 』
 
 
 
 
 
 
・・・私のいとおしいお嬢様、
貴女にこの全てを捧げましょう。
 
この身の自由も、己の潔白も、何もかも。
 
 
貴女を護り抜くためであれば、
此の手足の腱を切ることさえいとわない。
貴女のその身を苛むだろう刃に、
此の身を全て投げ出し貴女の代わりに貫かれることさえ構わない。
(私が受ける痛みよりも、貴女が受けるだろう痛みを思うほうが辛いのだから)
 
貴女が行くと仰るのならば、
私は黙って貴女を見送りましょう。
貴女がその結果として罪を負うならば、
今度は私も共にその罪を負いましょう。
(貴女の罪は私の罪、貴女の望みは私の望み)
 
貴女が私を想って下さるのならば、
私は貴女のその何倍も貴女を想いましょう。
貴女が私を恐れるのならば、
私はその恐れが消えるまでそっと貴女を見守りましょう。
(心通わぬときも、私は貴女の傍に居りますゆえ)
 
貴女が私を信じてくださるのならば、
私はその御心を裏切ることなどありませぬ。
貴女が私を疑われるのであれば、
私はそれでもなお、貴女のために尽くしましょう。
(貴女を苛むことだけは、決して出来ないのだから)
 
貴女が微笑むのならば、
私は幾らでも貴女の笑顔のために手間を惜しまない。
貴女が悲しむのならば、
私はその涙を拭うための手段を選ばない。
(かつて貴女を独りにしたことへの、償いにもならないけれども)
 
貴女が私に背を向けられるのであれば、
私は貴女が振り向いてくださるのを待ちましょう。
但し、私が貴女に背を向けるときがあるとしたら、
それは貴女を護るため・・・あらゆる災禍の矢面に立つとき。
(貴女から目を背けるためではなく、貴女を護る盾になるため)
 
 
紫の、甘く芳しい香りを放つ匂紫のようなお嬢様。
その快い香りのように、労わり、慈しむ力を秘めた貴女。
 
私の全てを捧げても構わないと、
いや、全てを捧げてでも守り抜くと誓った、私の誇り。
 
・・・もう、貴女を独りにさせはしまい。
 
 
 
 

兄様とルキアの立場逆転『執事』ネタです。

(ちなみに『匂紫』とはヘリオトロープの和名。花言葉は『献身』。)

シチュエーション的には絵になりそうなのですが、結構兄様らしくないような感もあるので、

主従逆転ネタは難しいですね。

 

 

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