『温かな、冬の香』 (前編)
「きゃぁっ!!」
「うわっアノ馬鹿!!」
「・・・ったく、お前はこんな庭の隅っこで何をしてたんだよ。」
「御免なさいお兄様。」
「裸足で木に登って、危うく落ちかけやがって。
それでも隠密機動に代々人材を排出している大前田の端くれか??」
「あれを取ろうとしていたの。でも手が届かなくって。」
「アァ?・・・ただの柚子じゃねーか。」
「柚子じゃなくて、鞠を取ろうとしたの、ほら、あの辺りに見えるでしょ?
遊んでいた鞠が飛んで引っかかっちゃって。
だから鞠を取ろうとして草履を投げたの。」
「で、草履は?」
「それも引っかかっちゃった。」
「ハァ??」
「だから、草履と鞠を取ろうとして木に登ったんだけれど・・・
途中で降りられなくなっちゃって、それからトゲにも引っかかっちゃったの。
刺さって痛くて、つい手を離したら・・・木から落ちちゃった。」
「・・・この俺様が瞬歩で来なかったら、お前頭から落ちていたんだぞ。
幾ら元から不細工でも、顔から落ちて更に不細工になったらどーすんだよ。」
「・・・クソっ、とどかねーな・・・。」
「ご免なさいお兄様・・・」
「あともう少しなんだよな、お前の鞠。草履はすんなりいったのによ。
・・・仕方ねーな・・・よし、希代、俺に負ぶされ。」
「え??」
「お前の鞠だ。お前が自分で取れ。
俺に負ぶされば、お前でも取れるだろ??」
「・・・よいしょっと。」
「・・・何だ希代、ちゃんとメシ食ってんのか?ガリガリじゃねーか。」
「ちゃんと食べてるよ。」
「もっと食わねーと、大前田家の誇る母上や姉上のような美人になれねーぞ。」
「うん。」