『温かな、冬の香』 (後編)
(あれからしばらく経過・・・)
「・・・オイ、まだ取れねーのかよ・・・・」
「うーん、もうちょっとだけ・・・。」
「いい加減にしろよ。幾らガリガリのお前でも、流石に重いんだぜ。」
「お兄様、取れたからもう大丈夫。」
「・・・ん?さっきよりお前、重くなったか?」
「お前、鞠以外にも何か取っただろ。」
「鞠と・・・柚子よ。」
「ハ?何で??」
「鞠を取ったときに、ふんわりといい香りがしたの。
さっき木に登っていたときは、鞠を取るために必死だったから全然気付かなかったのだけれど。
本当にいい香りだから、お兄様にも良い香りを知って欲しくて。」
「・・・匂いばっかりで、食えたモンじゃねーのによ。
しかもお前、袖に一杯詰めてんな。どーするつもりだよ。」
「お風呂に入れてもらうの。」
「風呂?」
「そう・・・お風呂に入れるとね、あったまるし疲れも取れるし風邪も引かないんだって聞いたことがあるの。
お父様もお母様もみーんな、あったまって風邪を引かれないように。
いつもお仕事を頑張っているお兄様の疲れがちゃんととれるように。」
「・・・・」
「希代、母屋に戻るぞ。もう一度負ぶされ。」
「?・・・もう草履もあるから歩いて帰れるよ?」
「そんな大量の柚子を抱えて、その辺にボロボロ転がしながら帰るつもりか?
しかも鞠もあるだろ?
仕方ねーから母屋まで負ぶって行ってやる。有り難く思えよ?」
「クソっ、柚子のせいで余計に重いぜ・・・」
「ごめんなさい、お兄様・・・」
「でも柚子風呂だからな、今日は。」
「有難う、お兄様。」
「・・・その不細工やドン臭さも柚子風呂で直りゃいいんだけどよ、ま、無理だな。」
「えへへ。」
念のため申し上げておきますが、大前田氏の妹さんは凄く美人でよく出来た子です。
(大前田家ではそう思われていませんが、修兵氏や恋次氏が驚くくらいに可愛くて性格も良くて、典型的な『萌え系』の妹さん、でしょうね。)
で、結構大前田氏はこの妹さん(希代ちゃん)への言葉はキツかったり乱暴だったりするのですが、当の希代ちゃんはそんなお兄ちゃんに凄く懐いています。
ですので、何だかんだ言いながらも結構大前田氏も希代ちゃんのことはキツイ言葉を放ちつつも、「仕方ねーな」といって目をかけているのではないかな、と。
多分虐げられたり冷遇されていることは、無いでしょうね・・・あれは。