南天 (一)

 

『雪のうさぎ』
 
 
 
1.現世にて
 
 
「井上、」
「あ、朽木さん!!・・・今日もこっちに?」
「ああ。
・・・ところで、何を作っているのだ?アパートの前で何をしているのかと思ったが。」
 
「雪うさぎ。」
「?」
「え?朽木さん知らないの?・・・知ってると思ったんだけれど。」
「いや、朽木家に養子に入ってから、作ったことが無かったからな。
そういう童じみたことは止める様に、と言われていたから。」
 
「そっか・・・」
「だが、嫌いではない。何度かこっそり作っておった。
隊舎でなら・・・南天の実も葉も手に入ったし、兄様の目をそれほど気にせずに作れたからな。」
 
「で、井上、南天は・・・?
雪うさぎの目には南天、というのがお決まりだろう?」
「・・・この辺じゃ無いみたい。アパートにもあるわけ無いし・・・。」
「そうか・・・あ、
・・・ちょっと待ってろ、井上。」
 
 
 
南天の実、ですかねェ、流石にウチでも現世の観賞用植物は」
「やはり浦原、貴様のところにも無いか・・・。」
「すみません、品揃えだけは誇ってるんですがねェ。」
「悪かったな。」
 
「やはり、寂しそうな後姿は何時見ても切ないモノですね・・・」
「なーにを言うておるのだ喜助、南天ならあるではないか、床の間に。」
 
「夜一サン?」
「床の間の福寿草と植えてある飾り、アレは南天じゃろ?」
 
「あ、そういえばそうですね!!灯台下暗しとはこの事ですねアハハ」
「売り物として置いてなくても、あるんじゃったらちぃと分けてやっても良いのではないかのぅ?
・・・遊びは、大事なもんじゃ。遊ぶなら本気で遊ばねばならぬわ。」
「遊び、ですか・・・?」
 
 
 
「朽木さん、どこへ行ってたの?」
「すまぬ、南天を持っていそうな心あたりを探していたのだが・・・浦原の店にもなくってな。」
「ごめんね・・・寒いのに・・・。」
「それはそうと、沢山うさぎの土台を作ったのだな。」
「うん!!
1羽だけだと、きっと寂しいから・・・家族や友達も作ってみようかなって。そしたらこんな数になっちゃった。」
「・・・、
・・・そうだな!!1羽では、寂しいからな。」
 
「そうだ、雪で耳を作って形だけでも兎にすれば、」
「『けちゃっぷ』で目でもつけるか?あれも赤い・・・。」
「でも溶けて滲んじゃう。」
「あ、そうか・・・。」
 
 
 
「ちょいとお二人サン、」
「あ、浦原に、・・・雨も。
・・・さっきは悪かったな。」
 
「イヤ、こちらこそ悪いことをしたので、そのお詫びと言ってはなんですが・・・」
 
「・・・南天?」
「浦原、店には置いてないと」
 
「店には確かに品物としておいていなかったのですが、住まいの床の間に飾ってあった寄せ植えにはあったんですよ。
だから『無い』というのは半分本当で、半分ウソでした。
だからお詫びに少々お裾分け、と思ったんですが、
・・・アララ・・・足りませんかねェ、コレだけじゃ。」
 
「ううん、有難う御座います!!
コレで充分だよ・・・ね?朽木さん。」
「・・・そうだな。
所詮は只の遊びなのに、こうやって気に掛けてくれる者がいるだけで、」
 
 
「-朽木の、コレも使えそうじゃがのぅ」
 
-ぽふっ!!
 
「ん??何か頭に落ちてきたが・・・」
「おや夜一サン、流石ですね。コレなら確かにウチにも売ってますね。」
 
「・・・お手玉?」
 
「中身は小豆じゃ。ちょいと解いてみるがよい。
南天と比べたら黒くて可愛げもないが、ケチャップよりはマシじゃろう?
早速そのうさぎ達に目を入れてやると良かろう。
余ったら縫い合わせてもよし、汁子でも作って食べるもよし。」
「ま、南天の葉が足りないうさぎは、雪で耳を作ることになってしまいますが・・・」
 
「遊びには充分すぎるぞ。悪いな浦原・・・そして申し訳ありません、夜一殿。」
「なーに、遊びには本気を出さねばのぅ。」
 
―・・・じーっ・・・・ 
 
「ン?・・・どうしたんですかネェ、雨?」
「・・・うさぎ・・・」
 
「あ、もしかして一緒にうさぎ、作りたいんじゃ・・・
ねぇ雨ちゃんも一緒に作ろう?こっちにおいでよ!!」
「そうだな、雨、こちらで一緒に作ろう。
なにせこんなに井上が兎をつくったんだ。二人で完成させるのは大変だからな。」
「え・・・・」
 
「・・・雨、ワタシの後に隠れてないで、お二人のところへ行ってらっしゃい。」
「はい。」
 
 
 
「静霊廷では一人の死神として振舞っておっても、やっぱり白哉の妹もワシからしたら・・・
まだまだ子どもじゃ。
子どもは思いっきり遊ばなきゃならんのじゃ。」
「ましてやあの子は、ずっと窮屈な場所にいたんでしょうからネェ。
そして井上サンも、色々と複雑なモノを負って生きてきましたから。」
 
「だからこそ、こういうときくらい、童のようだといわれてもはしゃぐくらいで丁度いいのじゃ。
ホレ、見てみろ・・・あの雨も、少しだけ・・・嬉しそうじゃ。」
「・・・ホントですね。」
 
 
「私の雪チャッピーのほうが可愛いぞ!!砂よりもやはり作りやすいな!!」
「えー!!やっぱり普通の雪うさぎのほうが可愛いよ♪作りやすいし。」
 
 
「・・・どっちもかわいい・・・みんなかわいい。」

「そうだね、どっちも可愛いよね。」

「そうだな、みんな可愛いな。」

 

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