虹(6)

 

(6)雨は上がり、そして・・・・

彼が目を覚ます前に、涅副隊長は片付けを済ませて先に戻られた。
虹の薬剤の件で御礼を言うと、ただ一言だけ「お役に立てて良かった」と。
日番谷隊長も精神的に来ていたみたいでぐったりしていたのもあるし、浮竹隊長が「このまま此処で目を覚ますのを待つのもなぁ」と
仰ったので、私は浦原の元へ立ち寄ったらどうかと進言してみた。
夏梨たちもいることだし、黒崎医院でも良いかとは思ったが・・・一護がまた変な気を回す可能性もあるし・・・
何だかんだで余計なちょっかいが無いのは浦原のところだろうと思った。
こういう立ち寄り位であれば、瀞霊廷もとやかく目くじらを立てるような事も無いだろうし。
私が彼を背負おうとしたが、浮竹隊長がひょいと屈んだ。
「そんな浮竹隊長、まだまだお体の加減も宜しくないですし・・・私が」
「いや、今日は調子が何だか良いんだ。
それに・・・今日は日番谷隊長の父親役だ。これでも子ども一人くらいは背負って歩けるさ。」
「浦原さんのところで休ませて頂ければ、そこで浮竹隊長のお加減の確認も出来ますしね。
ご案内いただけますか?朽木さん。」
「・・・、分かりました。こちらです。」
 
 
 
「う・・・」
「おい、大丈夫か??」
俺はどんな顔をしてコイツの顔を覗き込んでいたんだろう。
「冬獅郎・・・?」
「お前心配したんだぞ?皆が帰った後、あの木陰で気を失って倒れていたんだからな。」
記憶置換を行ったあと、コイツは気を失って倒れた。
浮竹が浦原のところまで運んできたのは、朽木の説明したとおり。
一応、口裏あわせで・・・あのまま木陰で眠っていたんだか倒れていたんだか・・・ということで、近所の知り合いの家に運んで介抱していた、
ということにしよう、と。
「ここは・・・?」
「知り合いの家だ。近所だったから寄らせて貰ったんだ。」
「はい、冷たい麦茶も頂いて来ましたよ。どうぞ。」
「ごめんなさい・・・冬獅郎のお母さん・・・。」
「いいのですよ。」
「あれ・・・?お父さんは?」
俺と卯ノ花隊長は顔を見合わせ、苦笑いした。
「それがだな・・・。」
俺が後ろを振り返ると、そこに・・・
 
「だから言ったじゃないですか、無理はするものではありませんよ、と!!」
「いやぁ悪いな朽木、でも本当に具合が良かったんだって・・・。」
 
「お父さん、倒れちゃったんですか???」
「ええ、あんまり身体は強くないから・・・。」
「もしかして、僕を背負って此処まで運ばれたからとか・・・。」
「それはそれ、あれはあれだ。何時ものことだから心配するな。
結構無茶して周囲を心配させるからなぁ・・・。」
「そうですよ。・・・さ、お茶をどうぞ。」
 
卯ノ花隊長が盆を下げるために席を外したところで、俺は聞いてみた。
「あのさ、お前・・・手品の記憶とかはちゃんとあるのか?」
「うん・・・手品師さんに『いつまでもメソメソしてるんじゃない』って怒られたところとか、
虹を見せてもらったところとか・・・。」
「その後の事は、記憶は無いのか?」
「うん・・・
でも、凄く温かくて・・・なんか夢の中でじーちゃんと妹に遭えたような感じだった。
姿は見えないんだけれど、それでも・・・心配してくれているのが分かったから、
僕、『大丈夫だから』って・・・。
寂しいし、悲しいし、辛いけれど・・・でも、少しずつでも頑張るからって・・・。
そうしたら、夢の中で、手品師さんほどじゃないんだけれど、虹が掛かって・・・じーちゃんと妹が、其れに乗って、手を振って笑って・・・
天国に行くのが見えたんだ。」
「そうか・・・・」
 
 
 
「しかし卯ノ花隊長、よく涅隊長を動かしましたね。」
「あまり浦原さんを動かしては・・・貴方もこれから色々と厄介でしょう?
でしたら動かすに足りるだけのモノを持っていたのですから、それを使う、至って普通のことではありませんか?」
「やはり貴女は相変わらずです・・・でも、少しほっとしましたよ。」
「あら?何に対してですか?」
「いえ、何でもありません。
ところでどうしましょうか、夕食も作ろうと思えば皆様の分をご用意できますが・・・。」
「そこまでお世話になってはご迷惑でしょうし、彼も目を覚ましてくださったので、これからお家まで送ってから私たちも戻ろうかと思います。」
「それは残念。」
「あくまでも貴方は形の上では追放された身。
其れを考えますと・・・私どもが居ては、貴方も動きにくいですし、私たちも中々動きにくくなります。此れはお互いのためですよ。」
「まぁ、其れもそうですね。」
 
 
 
あれから・・・
 
無事に追加予算も(全額とはいかなくとも)そこそこの額が決裁されたらしく、涅は満足をしているようだった。
あの虹の薬剤や他の手品の研究でも、色々と今後に行かせる技術の端緒が見えたということで、
涅自身にとっても無駄なものではなかったらしい。
一応は、全て丸く収まったようではある。
 
朽木に関して言えば・・・帰宅後、アイツの義兄の機嫌がやけに悪かったという話を聞いた。
外出していた事は知っていたらしいが、現世でその様なことをしているとは知らなかったらしく、それが面白くなかったらしい。
所謂『やきもち』といったヤツだろうか。もしくは『私も行きたかったのに何故話をしなかったのだルキア』的な駄々というか・・・。
もっとも、浮竹や卯ノ花隊長も同行していたこともあり・・・あまり強くは言えないらしい。
俺も人の事は言えねぇが、素直じゃない奴だと思う。
 
アイツのじーさんと妹は、確認したところ潤林安に今現在はいるらしい。
あそこなら俺のばあちゃんもいるし、俺や・・・事情を話せば雛森も様子を見に行ってくれると思う。
妹なんかは、雛森とだったら直ぐに仲良くなれると思う。
あのじいさんならば・・・手品をあっちでも披露して、直ぐに打ち解けられるだろう。
俺も休みの日とか・・・アイツの現世での様子を伝えるために顔を出せるかもしれない。
 
 
黒崎夏梨の話では、アイツも少しずつではあるけれど、学校で少しずつ笑うようにもなってきたし、
人の輪の中にも入ってくるようになったらしい。
それでも、サッカーの練習に戻ってくるまでには結構な時間が掛かったというが。
 
「でもさ、ほら・・・。」
「あ。」
 
 今日来てみれば、まだまだ以前のような覇気は無いものの、他の奴らと一緒にグラウンドでサッカーボールを追いかけて走り回っていた。
さっきまで雨が降っていたのだろうか、グラウンドの土には湿り気があったものの、それでもサッカーが出来ないほどでは無い。
 
「アイツ・・・。」
「少しずつだけれど、みんなで・・・迎えに行って連れ出すようにしたんだ。
サッカーは出来なくてもいいから、見てるだけでもいいから、グラウンドまで一緒に行こうって。」
「へぇ・・・。」
「そうしているうちに、自分からグラウンドまで来る様になったんだ。
でもああやってサッカーボールを追いかけるようになったのは、実は昨日から。
・・・冬獅郎が来るかもしれないってのを、感じていたのかもな。」
「そんなにアイツは勘は良くないだろ。」
「まあな。」
「・・・で、冬獅郎、今日はやってくか?久々だろ?みんなと会うのも。」
やがて、俺が来ているのに気付いた奴らがこっちにやってくる。
その中には、アイツもいる。
「ああ、ちょっとだけやっていくかな・・・。」
 
と、その時、
 
「がんばれ~冬獅郎!!」
「怪我をしても大丈夫なように、救急セットをもってきましたよ。
お茶も持ってきたから皆さんで飲んでくださいね。」
 
振り返れば其処に居たのはあの二人!!
 
「ぅおぃっ!!・・・」
慌てて二人のところに駆け寄った。一体どういうことなんだ?????
「今日は休暇だと聞いていたし、現世に行くという話を松本から聞いたからな。ここにいるんじゃないかと思ってさ!!」
「・・・何時まで俺の両親代わりをするつもりだ??」
「あら、私たちは別にあの時限定だなんて申し上げておりませんよ?」
「やっぱり一度だけしか両親が出現しない、ってのも変だろう??
せっかく現世で友達も出来たんだ、友達にはご挨拶が必要だろう?」
 
俺が『いい加減にしろ!!』と叫びそうになっていたとき、
「あっ!!虹!!」
それはアイツの声ではなくて、黒崎夏梨の声だった。そして次々とあいつらが気付いて歓声を上げる。
俺はふと、アイツを見た。
・・・アイツは俺たちのほうを振り返って、ぎこちなくも・・・笑ってくれた。
 
「ほら、さっさと行って来い!!」
「仕方ねーな・・・。」
 
 
・・・もう少しだけ、この後日談には続きが書けそうだが、其れはまた別の機会にでも。
 
 

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