ふと、急に・・・
 
ルキアは何かに気付いたような表情を見せ、文机の上の暦を見やった。
それに気付いた私が取って渡してやると、
・・・唐突に私にこの様なことを告げた。
 
 
「・・・今日は、私の誕生日と兄様の誕生日、それぞれの日から暦を辿って数えていって、
ちょうど同じ距離にある・・・同じ時を重ね数えることの出来る、中間の日あたりだったんですね。
といっても、今日自体は、特に何も意味の無い、普通の日なのですが・・・。
でも中間の日って、何でもない日のはずなのに、ちょっとだけ特別なようで、不思議な感じですね。」
「そうか・・・」
 
そのようなルキアの言葉に、私も暦を覗き込んだ。
・・・偶然にも、今日は私とルキアの誕生日の『中間』辺りだったのか。
 
「・・・あ、でも、明日のほうが丁度中間くらいのような気もします。
明日なら、きっと私も体調が良くなっているでしょうし・・・」
 
成程、そうであれば、此れを端緒に・・・
この娘にとって唐突ではなく、こじつけがましくも無く、
もっと自然な形で誕生日を祝ってやれるのではないだろうか。
しかも、明日が『中間の日』であれば、私の誕生日にも近すぎず、
ルキアの具合も考えれば、それはそれで都合が良いやもしれぬ。
・・・折角、この娘自身が自分の誕生日について自ら言い及んでいるのだから。
 
元々今日祝おうと決めていたのは、快気祝いだの、復帰祝いだの・・・と合わせてのこと。
だがそれも、自身の事には余り触れぬルキアに余計な気を遣わせぬために
色々な理由を絡めただけの事であり、あくまでも本来の趣旨は誕生日祝いである。
・・・この様子を見れば、結局この娘は完全に回復などしていないのだから、
それらの祝いにこじつけて誕生日を祝うほうがより『不自然』ではないか、とも思った。
 
「お前と私の誕生日から数えて、同じ距離にある日・・・中間の日、か・・・。
今まで我らの間にあった日々の溝を埋めていく様に、
暦上の日々の間を埋めて重なった『中間の日』に何か事を為すには良いやもしれぬな。」
 
もともと今日、ルキアを驚かせながら祝いたいと考えていたものの、
・・・今日祝うつもりであったなどと思わせぬよう、私はわざと仰々しく勿体ぶりながら、
ルキアに、そう告げた。
 
「・・・数えて確かめてみるか。実際に数えてみれば、明日である可能性もあるだろう。
そうであれば・・・明日改めて何か為せることをすれば良い。
お前の体調も良くなっているやもしれぬからな。
仮に今日であったとしても、一日遅れではあるが、それでも良い、何かしようではないか。」
 
 
 
 
・・・一方で、
ルキアが唐突に言い出した『中間の日』について、
どこか腑に落ちない何かが、在った。
 
だが、考えるのを止めた。分からぬものは、何れ己の中で明瞭に見えてから考えればよい。
 
ー・・・今日であろうと明日であろうと、『中間の日』であるならば構わぬ。
一日遅れであろうと当日であろうと、明日、ルキアの様子を見て改めて祝ってやればよい。
暦の間を埋めて重なった日付のように、私とこの娘の間も埋めていけたならば・・・
これ程までに、嬉しい事はない・・・そうだろう?
 
そう自分に言い聞かせながら、私が暦をルキアから取り上げ、自分の誕生日を指差した後、
数えるためにその指を滑らせながら日付を順に遡っていくと、
ルキアも自分の指で同じように追っていこうとした。
ルキアが指を伸ばしやすい位置に暦を持って来てやり、ともに指を進めてみた。
 
 
ルキアの指は、十四日から暦の上を前進し、
私の指は、三十一日から暦の上を後退する。
 
 
・・・少しだけ淡い期待をし、指を滑らせる速度が上がっていたのだが、
急に、互いに速さを落としてしまった。
 
そして、
 
・・・睦月の二十二日と二十三日まで互いの指が進んできたものの、
同じ日を指して、互いの指が重なることは無かった。
そう、二人の指が重なるはずの『中間の日』が存在しないのだ。
 
次にルキアの指が二十三日まで進むとき、私の指は、二十二日へと下がっているだろう。
・・・同じ日を互いの指で示すことなど、ないのだ・・・。
 
お前と私は、こうして互いの間に存在する日々を数え、埋めることは出来たとしても、
結局は・・・同じ時を共有することもなく、暦の上でさえも日を重ねられずにすれ違うのだろうか?
今までの我らの歩み、そのもののように・・・
 
それ以上互いの指を進めることができずに・・・二人とも、暦から指を離してしまった。

 

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