「ことごとく、間が悪いというか・・・駄目ですね・・・私は。」
ルキアは、大層申し訳なさそうに笑った。
「ちゃんと元気であれば、こんな風にならずに、兄様にお気を使わせずにすんだのに。
そして何より、私は兄様のお心遣いにちっとも応えることが出来ず、
いつも結果的に別の方向へむいて、すれ違ってしまいますね。
今日だって、この有様です。
・・・こんな暦の日付の上ですら、日々を埋めても、重なることなく、ことごとく、すれ違ってしまいます。」
そこで、初めて私は・・・己の中に先程からもやもやと存在していた
腑に落ちないものの『中身』がはっきりと見えた。
ルキアが何故その様な己を卑下することを言うのか、
そもそも、何故・・・
今日又は明日が互いの誕生日の『中間の日』ではないかと、
だとしたらありきたりな日が特別に感じるなどと、
明日なら体調が良くなっているかもしれないから、と・・・言い出したのか。
まるで自分の誕生日を明日にでも祝って欲しいかのように。
だが、しかし・・・この娘の暦に、睦月十四日への書き込みは無い。
・・・何故だ・・・?
『これではお前の誕生日が祝えないではないか・・・』
・・・私は漸く己の失策に気付いた。
思い当たるとすれば、それしかない・・・が、
私はそれを、お前に聞こえるように言ったつもりは無い。
そう、あくまでも小さな溜め息と共に吐き出した独り言、のはずだった。
「・・・もしや、聞こえてしまっていたのか。私の、その・・・独り言が。」
「・・・はい、少しだけ、ですが・・・。」
ルキアはふっと目を伏せ、更に申し訳なさそうな顔をする。
元来、お前は・・・
暦の私の誕生日には兎の絵を描いていても、お前自身の誕生日には何も描かぬ程に、
・・・自分の事は、口にも出さねば行動にも出さぬ。
此方が哀しくなるくらいに一切触れぬ。
まさか私が今日祝おうと考えていた、という所までは察してなどいないだろうが、
私がこの娘の誕生日を祝いたがっていることを、あの独り言から察していたのだろうな。
この娘は、自分の祝いのためと言うよりは、私の願いを叶えたいと思ったのだろう。
故に、それを叶えるきっかけを、あの独り言を聞いてからの僅かな時間で、
・・・この娘なりに探していたのだろう。
そこで偶然、暦を見て気付いたのだろう・・・『中間の日』かもしれないと。
一連のお前の話は、唐突ではあれど、私の独り言を酌んで気遣ってのものだろうか。
何もない日に特別な意味を見出せれば、私も祝いやすかろうと思ったのだろうか。
・・・『中間の日』・・・
私の願いを叶えるきっかけを見つけたと思っただろうに、
それが残念なことに、裏目に出てしまったようだ。
・・・しゅんとして目を伏せるこの娘を、どうしたら笑わせてやれるだろう?
これでは、本末転倒ではないか。
ー・・・そのような顔を、してくれるな。
そもそも、である。
ルキア、暦まですれ違うのはお前のせいではない。
それに、私とお前の心が今まですれ違ってきたのも、お前のせいではない。
だが・・・本当に、すれ違っているのか?
間に空いた日々を埋めるように進めた指は、本当にすれ違う運命なのか?
―・・・否、あれは・・・
思わず、私の口元が緩んだ。
それを見たルキアは、不思議そうな顔をして私を見ていた。
「そうではない」
「?」
もう一度、ルキアに数えるように指示し、私も再び指を進めた。
・・・やはり指は重なる事は無かった、が。
「この指は、これ以上お互いに進まぬ。それが正解なのだ。」
「え?」
「進まなければ、すれ違うこともなかろう?
指がこのように隣り合って出会った以上、どうして先に進めてわざとすれ違う必要がある?」
ルキアが更に不思議そうに、私を見上げていた・・・
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