不思議そうな顔をしたままのルキアをよそに、私はわざと話を進めた。
「・・・明日は休むように。また体調をそのように崩しては、他の者に迷惑だろう」
「申し訳ありませぬ・・・」
「だが、体を休めているだけではつまらなかろう。」
「・・・?」
「私も明日は休みだ。ゆるりとではあるが、ともに過ごそう。
お前の生まれたその日に祝えなかった分、盛大にとはゆかぬが・・・
『中間の日』に、お前が生まれたことへのささやかな祝いもしよう。」
「ですが『中間の日』は存在しないのでは・・・
先程兄様と暦の上で指を進めて行った時も、重なる場所は無かったはず。」
「日が重ならぬのならば、暦の上で指をこうしてつき合わせた今日も、隣り合った明日も、
二つ合わせてお前と私の誕生日の『中間の日』だ。今日も明日も、特別な日にすればよい。
並んでいるのだ。隣にあるのだ。
溝を埋めてきたこの日々は、すれ違ってなどいない・・・すれ違わせる必要も無い。」
ルキアの表情には、困惑の色が浮かんでいた。
・・・お前が最初に言い出したというのに。
いざとなって、自分が祝われることに戸惑いや遠慮を感じているのだろうか?
「で、ですが・・・よくよく考えれば、この日は兄様にとっても『中間の日』です。
しかも明日は、私ではなく、兄様の誕生日に近い側の日。
そうしたら兄様のお誕生日は・・・私ばかり祝われても・・・・」
「・・・では、私の分も共に祝うか?」
ルキアに余計な気を使わせぬようにと言っては見たが、
私の祝いを合わせて行うのも、強ち悪くは無い、と思った。
だが、
「ですが、そうしたら兄様を三十一日よりも先に祝ってしまうことになりますし、
恐らく三十一日は盛大にお祝いをされるはずですから・・・」
「では、お前はどうしたいのだ?
そもそも、『中間の日』について最初に言い出したのは、お前ではないか、ルキア。」
「そ、そうですが・・・でも、あの、
やはり、その・・・私の誕生日の祝いなど、気になさらないでください。
・・・こうして兄様に気に掛けていただけるだけで、お気持ちだけで、私は充分で」
お前がすすんで自分の誕生日を祝えと言うような性ではないこと、それは充分解っている。
だからこそ・・・ルキア、お前は、
私の願いを叶えてくれようとしたのでは無かったか?
それ故に唐突にも『中間の日』だと言ったのではないのか?
お前と私の間を埋めるように暦を数えていった、あれは一体何だったのだ?
更に・・・私は、
先程己が発した言葉の内から、もう一つ、願いが生まれているのに気付いた。
最早、我侭と言われても構わぬ。
お前の生まれた日を祝いたい、そして・・・
「・・・私の誕生日などは、客人やら何やらで、一番祝って欲しい存在から充分に祝ってもらえまい。
正直、その日に祝いなど要らぬくらいだ。
・・・だが、私は一番祝って欲しい者からは必ず祝って欲しいのだ。」
ルキアから目をそらさずにそう言えば、ルキアが目を泳がせた。
そしてそのまま、ごにょごにょと口ごもらせながら私に向かって尚も言葉を紡ごうとする。
「それに、まだ私は兄様への贈り物を用意できておりませぬ・・・」
「お前が用意しなくとも、私は、望めばいくらでも欲しい『物』は手に入る。
祝いの品も、これが欲しいといえば何処からともなく届けられる。」
「・・・そう、でしたよね・・・」
「・・・だが、私の分は貰っているも同然なのだ。
故に、共に祝うだけでよい、私は何も要らぬ。」
「・・・同然、とは・・・?」
「そもそも、すれ違いどころか本来であれば何も無いはずの今日という日が、
お前が気付いた些細なことからではあるが、特別な日なのだと気付かされた。
しかもその日は、お前と私の誕生日の『中間』を構成する片割れ。
隣り合うもう一日を特別なものにして、二つそろえて、初めて真の『中間』になる・・・
・・・そう、二つそろっていなければ意味を成さぬのだ。
そして、それは、私とお前も同じだ。」
「・・・同じ・・・ですか?」
「溝を埋めながら指し示された、二つの隣り合った日の双方を特別に思わねば意味を為さぬのと同じで、
私とお前の二人が揃っていなければ、意味を成さぬのだ、色々と・・・。」
私の手は、そっとルキアの頬に自然と伸ばされ、触れていた。
・・・あの時、この温もりを奪われぬようにと、どれだけ願い、祈っただろうか。
ルキアは自分の頬に当てられた私の手が心地よいのか、すっと目を閉じた。
その穏やかな表情は、以前には見られなかったもの。
「お前がこうしていれば、私は、それでよい・・・
この隣り合って初めて意味を成す暦の日付のように、
これから先も私の隣に、お前が居ればそれでよい。
・・・他の贈物など要らぬ、用意も要らぬ。
そう、他には何も要らぬ・・・分かったか?」
「・・・はい、兄様・・・」
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