御萩

『彼岸のデジャヴ』 (後編)

 

「萩の花が見事だな。」
「・・・今年はちょっと遅いくらいじゃないかな。早いときには文月の終わりくらいから咲くものもあるくらいだ。」
 
あの時のように、白哉が来ていた。
あの時のように、霊圧を消して。
 
「・・・騒がしいな。」
「あ、今日彼岸だろ?恒例の『おはぎ』作りだ。」
「・・・恒例?」
「そう、都が最初に始めてさ・・・それ以来ずっと春と秋の彼岸には。
ほら、お前もあの時・・・」
 
白哉は、分かっている、という・・・刺す様な視線をふと俺に向けてきた。
そのとき、
 
「お!!ぼたもち!!」
「馬っ鹿じゃないの仙太郎!!これは御萩、おーはーぎ!!!!
まったく季節の風情もぶち壊しなんだからこのアゴヒゲ男は!!」
「んだとコラ!!このハナクソ女!!」
「も~お二人とも止めてください!!みんなが驚いてますから~」
 
朽木が仙太郎と清音の喧嘩を止めに入り、他の隊士たちの笑い声も聞こえてくる。
朽木も慣れたもので・・・今では御萩作成要員の中核?らしい。
 
「朽木さん、仙太郎に『ぼたもち』と『おはぎ』の違いを教えてあげて頂戴!!」
「え、清音殿、私が・・・ですか??」
 
そんなやりとりに、静かに・・・あのときと同じように耳を傾けていた白哉。
そのとき、
 
「そうだ、朽木さん・・・御萩、持ち帰ったら?」
「え?」
「そうだ、家に持ち帰って朽木隊長に食ってもらえばいいや。」
「えええ?」
 
白哉の動きがぴたり、と止まる・・・いや、もともと動いてはいないけれど、空気が止まるというか、そんな感じだ。
 
「しかし、恋次からも以前聞いたので確実なのでしょうが、兄様は甘いものは」
「でも朽木の作ったもんだろ?このハナクソ女が作ったモンならどうかと思うけど」
「何よ仙太郎!!人が一生懸命に作ったものにケチつけようっていうの??」
「だからお二人ともおやめくださいって~!!」
 
白哉がすっと立ち上がった。
・・・あの時も、そうだったな。
 
「浮竹、邪魔をした。」
「あ、ああ・・・あのさ白哉」
 
声を掛けても振り返ること無く、きしりという音を立てることもなく、
白哉は足早に歩を進めていた。
・・・結局隊舎の玄関まで見送ったのだが、
 
「あのさ、白・・・」
「アレに、」
「・・・?」
 
「小さいものであれば・・・屋敷に持ち帰っても別に構わぬ、と伝えておけ。」
 
「・・・何だ其れ、自分で言えばいいじゃないか。
大体な白哉、其れが人に物を頼むときの言い方か?・・・っておい、」
 
次の瞬間には、瞬歩を使ったのか、姿は消えていた。
・・・それで義兄が来ていたことを察したのか、朽木が手を手拭で拭きながら慌てて玄関までやってきた。
 
「あれ?・・・浮竹隊長・・・先程兄様の霊圧を感じたのですが・・・・」
「たった今、帰ったよ・・・瞬歩で。」
「え・・・そ、そうですか・・・。」
 
肩を落として俯いた朽木に、不器用な義兄の伝言を教えてやったとき、
最初は信じられないといった表情を見せたが・・・。
 
「でも、本当にそう仰ったのですが?兄様が。」
「俺が嘘ついてどうするんだ?得な事は何も無いけれどな。
寧ろ黙っていたら俺の身に何か起こりそうだ。」
 
そう言ってやれば、俺を見上げながら・・・朽木が満面の笑みをみせた。
・・・自分で言えば、此れも自分の目で見られただろうに、全く。
 
「ほら朽木、持ち帰る分のぼたもち、早く行って取り分けて来い!!
みんなに食われちまうぞ。」
「浮竹隊長、ぼたもちじゃなくて、『おはぎ』ですよ!!
後で浮竹隊長にもお持ちしますね!!」
 
浮き足立って跳ねるように廊下を走って炊事場に戻っていく朽木。
 
 
 
・・・50年前に食べ損ねて以来か。
 
 
 
・・・今度こそ、御萩を食べる羽目になりそうだな。
覚悟して於けよ、白哉。

 

 

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