『 Nostalsia for ・・・ 』 (前編)
・・・常に危険な任務を遂行し、死と隣り合わせである『刑軍』。
そこの総司令官である私もまた、常に死と隣り合わせである。
つまらぬものに気を取られ、
結果的にそれが原因で命を落とすようなことがあってはならない。
ただ私が為すべき事は、任務をこなすこと。
・・・敵とみなしたものは全て倒す、ただそれだけ。
他には何も、・・・そう、何も・・・・
「・・・っ!!!」
「貴女らしくない怪我を。」
「私もそう思う。手を煩わせてしまって申し訳ない、卯ノ花隊長。」
「私は此れが仕事ですもの。構いませんよ。
ですが・・・あまり気を張り詰めないで、たまには力を抜いても良いのでは?」
「其の隙を衝かれては、二番隊、そして刑軍の恥。
ましてや其の頂点である私が」
「それもそうですが・・・今お薬をお持ちしますね。少しでも治りが早まるように。」
「ありがとう。」
ふと・・・診察室の窓のほうを見やると、色鮮やかな天竺牡丹の花が目に飛び込んできた。
「花か・・・生け花を嗜む卯ノ花隊長らしいものだな。」
同心円に開いた赤や黄、白、橙、桃色・・・黄緑まで最近はあるのだろうか。
形も普通の菊のようなものから、八重に開くもの、さては鞠のように丸いものまであるようだ。
そして濃い色をした茎や葉が、より花の鮮やかさを際立たせる。
・・・それはまるで、夜空に咲き誇る大輪の花火のようだ。
「・・・花火のよう・・・か・・・。」
そうだ・・・花火・・・・
私が初めて花火を見たのは、刑軍に入って最初の夏のことだったな。
今でこそ(自分の流儀にそぐわぬ)大砲のような卍解を用いる私ではあるが、
あの当時は・・・実は大砲のように大きな音で打ちあがる花火が苦手だった。
戦いの中であのような爆撃を伴うような戦術は使わぬし、
幼い頃から戦うことだけを教えられ、常に戦いの中に身を置いていた私にとって
花火という娯楽は無縁のものだったのだから。
それ故であろうか・・・大音響に慣れていなかったのだろう、恐らくは。
だから、其の年・・・
花火が上がるから見に行こうと刑軍の者に誘われたとしても、
「興味が無い」「鍛錬や修行など、他にすべきことがある」と言って断っていた。
今思えば、怖がりな己を晒したくなかったのだろう。
当時の刑軍は今と違い『和気藹々』としていた。
共に死線を越えて戦う仲間、といった雰囲気があったのだ。
それは当時の総司令官であった夜一様の方針であったろうし、彼女の人柄ゆえのことでもあったと思う。
そのような気質故に・・・皆も気楽に誘ってくれたのだろうけれど、
そこまで心を開けるほどの余裕は、当時の私には無かったような気がする。
何せ、私には・・・
先に刑軍に加わり、そして『あっさりと』死んでいった六人の兄らとは違うのだ、私が蜂家を背負っているのだ、
といった妙な気負いがあったから。
だが、
「なんだ砕蜂、お主、折角の花火を見に行かぬのか?」
「よ、夜一様!!」
皆を送り出した私の目の前に立っていたのは、夜一様だった。
ニィ・・・と、何かを企むような、いや面白げなことを思いつかれたような顔をされながら。
「わ、私は別に花火など興味は」
「そんなことでは、中身の無い詰まらんヤツにしかならぬぞ。いくら強くなることができたとしても。」
「しかし・・・」
「たまには息抜きも大切なことじゃ。いつも張り詰めていては、逆に感覚が鈍るものじゃ。
ほれ、行くぞ。」
「え、ぅわっ!!・・・」