私が夜一様の小脇に抱えられてたどり着いた場所は・・・
「・・・っ!!」
地面に降ろされた直後に鳴り響いた轟音。
私は思わず、耳をふさいで座り込んでしまっていた。
其れもそのはず、其処は花火打ち上げ場所の真下に近い場所だったのだ。
花火を好む者からは「花火の特等席は真下」と言われるらしいが、
・・・当時の私にとっては拷問に近いもの!!
「なんじゃ砕蜂、お主、花火が怖いのか?」
「ち、違いま・・・きゃぁっ!!」
破裂に近いような音が至近距離で聞こえて、私は怖くて見上げる余裕なんて無かった。
今の私からすれば、どれだけ臆病だったのか・・・と思う。
だが何よりも・・・
夜一様に笑われているのでは無いか、呆れられてしまったのではないか、
失望されているのではないか・・・・
そう思うと、余計に怖くて顔を上げることが出来なかった。
顔を上げたら、きっと夜一様のお顔がこの目に映るから・・・。
そのとき、
耳をふさいでいた私の手の上に、何か温かいものが重ねられた。
驚いて顔を上げると・・・
夜一様のお顔がこの目に映ることは無く、その代わりに・・・
とおく微かな、どーん、という打ち上げ音が聞こえ、
其の直後、
「・・・うわぁ・・・・」
この目に映し出されたのは、頭上で同心円に開いた、それはそれは綺麗な紅色の花火だった。
ずっと私は・・・その美しさに心を奪われ、空を見上げ続けていた。
鉄紺の空に咲く、色鮮やかな光の華を。金や銀の光の雨を。
「こうすれば、怖くないじゃろ?」
「・・・夜一様・・・」
花火の合間に一瞬だけ手が緩み、夜一様の声が聞こえてきた。
恐る恐る振り返ると、ニィ、と悪戯っぽく笑うお顔が目に映った。
まるで頑なで怖がりな妹に少し呆れながらも、面倒を見てくれる姉のような。
「たまにはこういうモノもいいもんじゃ。
戦いの事ばかり考えていては、脳が疲れてしまっていざというときに動けぬもの。
それがどういうことを意味するか・・・お主ならわかるじゃろ?」
・・・そう、夜一様が私の背後に廻り、後ろから耳を塞いでくださったのだ。
厳密には、耳をふさいでいた私の手の上から、御自分の手を重ねて塞いでくださったのだが。
「ほれ、次が上がるぞ。」
再び私の耳は、自分の手と・・・其の上から重ねられた夜一様の手で塞がれ、
私は夜空をずっと見上げ続けていた。
・・・手が疲れたでしょうに。
あの時・・・最後の花火が打ちあがるまで、ずっと塞いでいてくださったのだ。
今この目に映る天竺牡丹のように・・・
暗色の中に浮かぶあの色鮮やかな光の色は、様々な事を経てたどり着いた今も、
記憶の中で色褪せることが無い。
・・・そしてあの手の温かさも。
「懐かしいものだな・・・・」
「あら?天竺牡丹をご覧になって、何か思い出されたのですか?」
いつのまにか戻ってきていた卯ノ花隊長が、にこやかに笑っていた。
「いや、下らない昔の話だ。」
「そうですか?」
それだけではないでしょう?と言いたげな卯ノ花隊長・・・・
やはり見透かされているようだな。
「それとついでに・・・
たまには、息を抜くのも悪くは無いだろう、そう思っただけだ。
あまり張り詰めていても、張り詰めすぎて感覚が鈍ることも有るだろうから。」
「・・・そうですよ?」
・・・そういえば最近、少し張り詰めすぎかもしれぬな。
ちなみに、天竺牡丹とはコレのことです→
そう、おなじみのダリア。
・・・そして今回のネタは私の幼少時代のエピソードからです。
結構ビビリだったんですよ、私。。。
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