『こまむら日記』 ~幼稚園での日々を綴る~
◎月×日 天気 曇りのち晴れ
今日はあやめ組の射場くんの素敵な才能を知ることができた。
彼はどちらかというとどっしり構えた、いわゆるガキ大将のようなところというか・・・この幼稚園にやってきた当初からどことなく不思議な『風格』があった。
見るからに『将来この子はどうなるのだろうか』と、若干心配もした。
だが、ワシのそんな心配こそが愚かしいものだった、と彼から教わったのである。
射場くんが「こまむら先生の似顔絵をかきやした!!」とワシに見せてくれたのだが、それはまたとても上手で、なおかつ本当にワシがモデルなのか?と信じられない程に可愛らしいものだったのだ。
所謂、デフォルメというものかもしれぬが・・・ワシは大層それが気に入った。
彼にこんな才能が隠れていたなどと知る由もなかったのだが、それはワシが彼の外見や風格だけに囚われすぎていて、彼自身の本質・・・いいところを見てこなかったからでもあろう。
一介の教育者として、反省すべきである。
只、射場くんはワシを強くてワイルドな狼として描きたかったようで、若干不満だったらしい。
「こまむら先生のかっこいい迫力が出てない」と言っていたので、ワシは「じゃあ、横に『ワン!』と描いたらどうだ?」とアドバイスをしてみた。
吼える声で、射場くんが満足できるような迫力が追加されれば良いのだが。
1月21日 天気 晴れ
本日は、この『せいれいてい幼稚園』や新しくできた『うぇこむんど』幼稚園などを纏める『学校法人ソウル・ソサエティ学園』の理事長でいらっしゃる山本先生の御誕生日である。
勿論、この『せいれいてい幼稚園』でも・・・山本先生のために園児達が御誕生日の贈物を力を合わせてつくったり、また先生にお手紙を書いたりした。
山本先生は、我々教員に対しては・・・それは厳しい方である。
教育とは何か、教師とは何か、について・・・たとえ新人であろうとベテランであろうと区別無く常に問いかけ、また『ぺいっ!!』と叱咤もしつつ、激励もされる。
だが園児達の前では、いつもにこにことした好々爺としていらっしゃるのである。
クリスマス会では、自ら率先して『さんたくろーす』に扮して子ども達に囲まれていらっしゃったし、また先生も元気な子ども達に囲まれるのがお好きなのだろう。
そんな山本先生が本日は此方に顔を出され、さっそく園児らに取り囲まれていた。
丁度餅つき大会の日と先生のお誕生日が重なっていたのもあり、先生にも餅つき大会にご参加頂いた。
体調不良の浮竹先生に代わり、山本先生が杵で力強く餅を搗き、卯ノ花先生が手際よく餅を返している姿がたいそう珍しかったのか、子どもたちは目を丸くしたり、大はしゃぎでその様子を見ていたり・・・。
勿論、みんなで美味しくお餅は頂いた。
子ども達にとっても、素敵な思い出になったに違いない。
そんな中、ある子どもが「山本せんせいは何歳になったの?」と聞いたので、
山本先生は「そうじゃのう、彼此2000年は生きておるが、もう覚えとらんわい」と仰ったのである。
・・・流石に冗談だとしても、想像を超えるものがあるだろうな。
だが、さらにその子は卯ノ花先生にも聞いてしまった。
先生はにっこりと笑ってこっそり耳打ちで教えたようだが、その子は聞いた瞬間に固まっていた。
・・・世の中には、聞いていい事といけないことがある。
そして、そうやって苦い体験をしながら、みんな大人になっていくものなのだ。
一応、精神的なアフターケアは必要だろうな。虎徹(勇)先生に相談するとしよう。